まわる。
「情けは人のためならず」という言葉がある。
物事は回り回って自分のもとへ帰ってくる。という意味だ。
「恩返し」なんかも、これに含まれる行為だろう。
近頃はそれを実感することが多い。
それを受けるといい気持ちになるので、書き留めたくなった。
僕には既に逝去した祖父がいる。(ここでは母方の祖父のこと)
僕は、彼がいなくなるまでの8年間で、かなりの愛情を受けて育った。
母やその他の親族に話を聞いても、その溺愛ぶりは異常だったという。
堅物で、「THE昭和の男」という言葉がぴったりだった祖父が、僕と遊ぶときは信じられないくらいの笑顔になっていたらしい。
幼少期に色々あって祖父の家で多くを過ごした僕は、それに応えるように祖父に懐いた。
2006年彼は胃ガンで死んだ。
「紘ちゃんの成人式に行くのが夢ばい」「大人になったらカナダにキングサーモンを釣りに行こう」と常に言っていた。
闘病中に書いていた日記の8割は僕のことだったらしい。
(母には苦い顔をしていじられる)
それから14年。
僕は社会人になった。
学生最後の帰省で様々な親族の家に行き、お礼を言って回っていた。
その時に就職祝いとして、お金をいただくことが多かった。
その時にセットでついてきた言葉が、「じいちゃんなら絶対こうするけんね。」だった。
自分で言うのも恥ずかしいが、じいちゃんが愛したくても愛せなかった分を、周囲の人間が補おうとしてくれたのだ。
もちろんお金だけではない。
言葉や料理、いろんなもので僕の新たな旅立ちを応援してくれた。
引越しにかかる初期費用が想像の倍以上かかり、親や親戚に頼んだ時も、「じいちゃんならこうするけんね。」と言い、なんならそれよりも多くのお金を出してもらった。
ぶっちゃけ、うちの母方の親戚は裕福だと思う。
地元で有名だった工場を経営していた曽祖父がいて、地域で一番早くテレビと車を持っていたらしい。
祖父も工場を経営していたため土地を持っていたりと、かなり恵まれていたのではないだろうか。
それを差し引いても、だ。
あまりにも皆んなが同じことを口にするもんだから、必死に子供の頃の記憶を掘り起こした。
そして神奈川県に引越し、東京のオフィスに通う生活が始まった。
少しずつこの生活にも慣れてきて、余裕が出たタイミングで、東京に住む大叔母(祖母の12歳下の妹)とランチに行った。
彼女は僕に、よくしてくれた。
実はこの大叔母とは初対面だ。
正確には15年ぶりらしいが、僕はその場面を覚えていない。
元々羽振りがいい性格らしいが、あまりにもよくしてくれる為、恐縮して「ほぼ初対面の僕にこんなによくしてくれてありがとうございました。」と言った。
すると彼女は「私も和正さん(僕の祖父の名前)にはお世話になっていたのよ。もう返せないから、紘ちゃんに返すわ。」と言った。
また、同じことを言うのだ。
帰りの電車でクルクルと考えた。
「なぜ何も成し遂げていない僕をこんなにも愛してくれるのだろう」
22年間生きてきただけの僕に、なんでこんなによくしてくれるのかが気になったのだ。
よくわからなかった。
まだ結婚もしていなければ、子供もいない若造には早すぎたかもしれない。
今はもういない人がやろうとしていたこと、やっていたことを、代わりにやってあげる。ということは、祖父も祖父で今も周囲から愛されているのだろう。
今回はお金を介してそれを受け取ることが多かったが、それは時に言葉に、時に態度に、時には物になるものだろう。
僕の父の言葉で「親ではなく、自分の子供や他のお世話になった人に返しなさい。」というものがある。
これは、僕が高校時代にオーストラリアに短期留学に行かせてもらった時や、学費の高い私立大学に一人暮らしをさせて通わせてくれた時などに、「いつか親父たちにも恩返しするな」と言った時に返ってきた言葉だ。
だから、大学生になって親に誕生日プレゼントを贈った時は、少し怒られた。
「お前が返すべきは俺たちじゃない。少なくともばあちゃんや他のお世話になった人達だ。」なんて言われた。
これらの出来事を考えるに、きっと「自分が受けた愛情やいい行為は大切にするべき人に返しなさい」ということが言えそうだ。
だから、きっと僕の人生のあるべき姿は大金持ちなんかじゃなく、「大切な人を大切にできるくらいのお金と度量を持ち、自分がやりたいことをやること」なんじゃないかなと思った。
TOCCHIさんの「これだけで十分なのに」という楽曲の一説に、「でも愛する人が欲しいものがあるなら、それを与えられる人にはなりたいかな」というフレーズがある。
周りを見るあまり自分のしたいこと出来てなくないか?必要以上の贅沢してないか?と問いかけられる一曲の中の、このフレーズはあまりにも刺さった。
資本主義において、お金というものは必要不可欠で、時に命と同等の価値になる時もある。
色々な意味に変化する金属と紙をより善く使うために、お金を稼げる人間にならないといけないなと思った。
ZORNさんの「my love」という一曲に「一回全てを手にしたい。とりあえず全てを手にしたい。そんで成功と平凡を見比べて、やっぱこっちだったとお前に言いたい」という一節がある。
とにかく稼げる男になって、それを心を込めて誰かに使ってやろうじゃないか。
運よく人格者の友人が多くいるので、間違った行動は指摘してくれそうだ。
安心して頑張れる。
全然うまく行かずにナヨナヨしていたペーペーの新卒の心に火がついた日になった。
ホントにありがたいなあ〜
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