『アンダー・ザ・シルバーレイク』――陰謀論卒業のすすめ(2018/10/XX)
『リング』(1998 / 監督は中田秀夫)って僕は何度観てもすげー怖いんですけど、それって貞子の正体を掴んでも呪いが解けない怖さ、つまり不条理なんですよね。『CURE』(1997 / 監督は黒沢清)もそう。そのような不条理に対して僕たちはどのように向かい合うか、その変革が迫られる。つまりホラーの本質は「解決不可能性による内破〔内側からの破壊〕」なんです、って大学時代の恩師が言ってました。
しかし世の中にはこういうホラーの本質を理解しない不粋な人がたくさんいます。殺人事件の現場にある暗号は犯人を示すメッセージだし、性行為をしたら追いかけてくる幽霊はエイズのメタファーだし、311は陰謀だし、反日マスコミは情報操作をして国民にひた隠しにする事実がある、と信じてる人たちですね。こういう人ってマジたくさんいるんですが、この映画の主人公もその1人です。アメリカ人ですが。
ハリウッドにもほど近い、カリフォルニア州ロサンゼルス市のシルバーレイクという街が舞台。2011年、シルバーレイクに住む33歳プータローのサムは家賃滞納であと5日以内に払わないと退去させるぞという通告をもらう。でもそんなことを気にせずサムはアパートのベランダで煙草を吸いながら斜向かいの隣人のおばちゃんの裸を観察(おかしいだろ)。でもその日、サムは向かいのアパートのプールで愛犬と遊ぶ水着美女を発見、恋に落ちる。彼女の名前はサラ。ひょんなことから2人は急速に仲良くなる。サムの生活はバラ色に輝くのかと思いきや、翌日、サラはこつぜんと姿を消す。友人のツテを頼りながらサラを探すサムは、やがてシルバーレイクに隠された巨大な陰謀に気づく。果たして、シルバーレイクの底には何が隠されているのか?ポップカルチャーと映画的引用の嵐、夢と幻覚と妄想、虚実の交錯する新感覚ミステリー!
雑にいうとこんな感じのストーリーではあるんだけど主人公に感情移入したらダメです。だって陰謀論者なんてマトモじゃないから、妄想と幻覚と都市伝説とゲームと夢とドラマと現実の区別がつかないんですよ。そうでしょ?映画の大半はサム視点なので、限りなくサムのこうなんじゃないか?って妄想が叶う世界が映ります。
でもだからといってサムの世界観と映画のリアリズムが一致しているかというと、そうではないと僕は思います。無意味な世界に意味を見出そうとするサムの陰謀論的欲望は、つねに空回りしていくからね。本作の監督デヴィット・ロバート・ミッチェルが一躍有名になった『イット・フォローズ』(2014)もそうですよね。この作品は、最初に書いた「ホラー」の本質を捉えた名作だと思うんですが("it"って空虚な名詞は本当にぴったり)、ネットで検索するとそれに気づかない陰謀論的欲望を抱くバカの謎解き記事がたくさん出てくるように、誤解されたなーって感じもします。『アンダー・ザ・シルバーレイク』もたぶん誤解されるんでしょうね。サムはゲームもいいけど浅田彰とか蓮實重彦とか大塚英志とか読んだほうがいいですね。アンダー、深層、真相、隠れた欲望、暗号、そんなもんない!ってやつ。
ちなみにシルバーレイクはここ数年?で急速にオシャレスポットになって地価が上昇して金のないアーティストは住めなくなったんだって。サムもその中の1人なのかなぁ
という文章を2018年10月某日に書いていたので、ここに供養します。noteはある程度、供養の場にさせていただこうかな。
noteを調べたら、汐田海平さんという方が同様の記事を書かれていたので(しかも僕よりも丁寧に)、やっぱそう思いますよね、と賛同と敬意を表してシェアさせていただきます。