その3:8月16日
森島健男先生が98歳でお亡くなりになられた。
『松籟庵便り(2)』の最後で、「初心者のために『木刀による剣道基本技稽古法』を作ったのはそのためである」と書いた。この基本技稽古法を中心となって作成したのが森島先生だった。何と偶然なのか、『松籟庵便り(2)』を出した日付が、森島先生がお亡くなりになった8月16日なのである。
先生には何度稽古をお願いしたか分からない。講談社の師範をされておられたので週に一度は必ずお出でになった。曜日が決まっていたので、その日は必ずお願いした。『私は人生のすべてを剣道から学んだ(1)』でも書かせて頂いた。しかし、イニシャルでの記述だったので気付いた人はいないだろう。62頁の「M先生の出端小手」が森島先生である。この箇所はとても重要なので、皆さんの参考のために、「剣技向上の極意」の所だけ載せることにした。
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剣技向上の極意(62頁)
定年退職してから書斎の身辺整理をしていたら、表紙に「原稿綴」と書かれた父のノートがあった。そのノートの中ほどに、「得意技を持つための修行」とサブタイトルが付いた文章があった。
「私は元来突き技が好きであった。だがなかなか突きというものは出るものではない。そこで長崎県佐世保海兵団の教官であった納富五雄先生を佐世保に訪ねた。『小澤さん、突きは腰で突くんですよ』と言っただけで何も教えてくれなかった。柏木質という先生(海軍中佐、熊本県出身で剣道教士七段、柔道七段)の勧めで行ったのである。
また、持田先生の勧めで足捌きの巧みな中野宗助先生を朝鮮京城に訪ねた。昭和12年の夏だったと思う。水の流れのような足捌きに感服して帰った。先生に少しでもあやかりたいと思って努めているが、なかなかそうはいきません」。
得意技を身に付けるには、良いお手本を見て真似をすることだと、父が残した短い文章の中から読み取ることができる。
剣道の技術を身に付けるためなら、どこへでも行く、どこへでも行って教えを乞う、という気持ちは尊いものだ。武者修行とはそういうものだと思う。
また、私は「人の長所を見ながら、自分の短所を補いつつ鍛錬せよ」と思っているし、自分に欠点があっても磨けば個性になると思っている。
例えば、
Y-1先生の出端小手、小手擦り上げ小手、面擦り上げ面
Y-2先生の面擦り上げ小手
Y-3先生の面返し胴(山内先生の面返し胴)
M先生の出端小手(森島先生の出端小手)
私の技は各先生の得意技の真似である。最近、You Tubeに「一本集」なるものがある。剣道の技を稽古するとき、その技を繰り出す前の攻め合いが大事なのだが、そこが省略されてしまっている。その技がたまたま決まったのではない。その技を繰り出す前の攻め合いが面白いのである。
森島先生の出端小手を見たのは野間道場だった。先生に稽古をお願いした人がほとんど同じように、同じ場面で小手を打たれていた。その場面を数回見たとき、「なるほど、小手はああいう風に打つのか」と納得して私も同じようにやってみたが全然成功せず、逆に攻めが甘いから面に乗られてしまった。ということで攻め方も真似をしてみたら成功した。
因みに、この「出端小手」が大事な時に、無意識に出たので工夫はしておくべきだと改めて思う。
森島健男先生の御逝去の報に接し、謹んで御冥福をお祈り申し上げます。合掌
2020年8月20日