【物語をどこで終わらせる?】センスが問われる部分の身につけ方とは(2015年10月号特集)
※本記事は2015年10月号に掲載された三浦しをん先生のインタビュー記事を再掲載したものです。
三浦しをん先生インタビュー
29歳で直木賞を受賞した三浦しをんさん。「まほろ駅前シリーズ」では便利屋、「神去シリーズ」では林業、『舟を編む』では辞書の編纂と、さまざまな題材の小説を手掛ける三浦さんに、小説を書くコツを聞いた。
笑わせるつもりでは書いてないんですよね。自分としては鬼の形相で、100%大マジに書いている。
――『あの家に暮らす四人の女』を書かれたきっかけは?
『婦人公論』から依頼をいただいて、女の人たちの話をというご要望だったので、谷崎潤一郎の『細雪』みたいな感じがいいかなと思って。
――〈 多恵美は犬の糞を踏んづけたような顔をした。〉〈 桐箱の山の麓には、手乗りサイズの綿埃が転がっていた。あれが埃ではなくマリモだったなら、かなりの大物と称して差し支えあるまい。〉 など、比喩が絶妙で楽しくなりますね。
笑わせるつもりでは書いてないんですよね。笑っていただけたのならよかったと思うんですけど、自分としては鬼の形相で、100%大マジに書いているんですよ。
――真面目に書いているから面白いんでしょうか。〈「さっきの、ガールズトークだった? 『目と同じ幅の涙を流しながら、河原で夕日に向かって吠えてる柔道部員同士』って感じに近かった気がするけど」〉というセリフなんか大爆笑でした。
劇画でよく、どんな涙腺しているんだっていう涙の出方をしたシーンがありますが、あれですね。
――登場人物の一人で、牧田家の敷地内に住む山田を紹介するくだりに、〈鶴代を妹のように、佐知を孫のように思っているらしく、「私がお二人をお守りせねば」と、頼んでもいないのに使命感に燃えている。〉とあり、いい人なのに煙たがられているというのがよくわかります。
本家『細雪』では、幸子の夫の貞之助は女たちと暮らしています。貞之助は谷崎潤一郎先生っぽいなと思うんですけど、実際に女の人に囲まれて暮らしたらそんなにいいもんじゃないと思うんですよ。それを表現したのが今作の山田老人で、谷崎潤一郎先生の化身です。所用があれば呼びつけられて、邪険にされて。
――山田老人のモデルは谷崎潤一郎でしたか。
私の勝手な推測ですけど、谷崎潤一郎先生も、邪険にされてもうっとりするようなところがあると思うから。山田老人の献身ぶりと、邪険にされてもめげない感じが似ているんじゃないでしょうか。
強引でもいいから終わらせる。それってすごく大事で、そうすると、どうしてうまくいかなかったのかが見えてくる。
――選考委員をされていて、これが、応募作品に足りないと思うことはありますか。
作者の情熱。それがない作品は、うまくまとまっていても心に残らない。自分はこれを書きたいという気持ちはすごく大事で、それがあれば、作品が少し破綻していても、文章が多少おかしくても、大丈夫です。
この賞はこの選考委員で、今までこういう作品が受賞しているとか、今流行っているのは? と傾向と対策を練るのは逆効果な気がします。
この人、本当にこの小説を書きたかったんだな、書かねばならなかったんだなというのが伝わる作品のほうが強いと思います。
――こうすると力がつくという方法はありますか。
とにかく最後まで書くことですね。無理やりでもいいから終わらせるんです。それってすごく大事で、そうすると、じゃあどうしてうまくいかなかったのかということが見えてくるし、強引にでも終わらせようとすると、話のまとめ方みたいなものもわかってくるんです。
物語をどこで終わらせるかってむちゃくちゃセンスが問われる部分で、行き詰まったら行き詰まったなりに、じゃあこう終わらせようという発想の転換をするといいと思います。で、反省を踏まえて次の作品を書く。
――完結させないとわからないことがあるんですね。
物語とは何かを知るためには、先行する作品を読んで研究することも大事だけど、自分で実践しないとなかなか上達しない。行き詰まってしまった、と途中で投げ出しては絶対だめ。そこを力技でなんとか、じゃあこうしたらどうだろうと、書きながらどんどん工夫していくしかない。
――先行する作品の研究とは?
必ずしも分析的にする必要はなくて、小説が好きだったら、読んでいて、ここが新しい、ここがいいと発見があるはず。すると、じゃあ自分だったらこうしようという発想も出てきやすくなるでしょう。
――出てこない人は?
それは小説への愛が足りない(笑)。
――最後に一言お願いします。
小説を書くのってすっごく面倒くさいし、根気もいるし、大変です。でも、書いて楽しければ続くし、書いていればうまくなるものです。ぜひ自由な気持ちで書いてください。
三浦しをん
1976年、東京都生まれ。00年『格闘する者に○』でデビュー。06年『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞、12年『舟を編む』で本屋大賞を受賞。ほか、『風が強く吹いている』『きみはポラリス』『仏果を得ず』『神去なあなあ日常』『政と源』など著書多数。『本屋さんで待ちあわせ』などエッセイも多数。
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※本記事は2015年10月号に掲載した記事を再掲載したものです。