
私は、ここにいる。~Drop's『コール・ミー』~
2009年、札幌の高校の軽音楽部に集まった女子生徒5人がバンドを組んだ。
「Drop's」と命名されたバンドは高校生バンドコンテストでグランプリを授賞し、3年生にして早くもデビューを飾る。2枚のミニアルバムとファーストアルバムを発表。ブルージーで骨太なバンドサウンドと凄みのある低音ボーカルは高く評価された。
2014年、『コール・ミー』が発表される。
コール・ミー・ベイビー
コール・ミー・ベイビー
一度だけでいいの
ざらつく温度だけが確かに胸を撃ち抜く
ライブでは最も盛り上がる瞬間に演奏され、バンドの代表曲となった。
Drop'sの順風満帆はその後2年程度しか続かなかった。この曲以上のインパクトを残せないまま、2021年12月のライブを最後に活動休止に入る。
要因は色々あるだろう。
結成メンバーの脱退と新メンバーの加入。新境地を開拓したアルバム。活動拠点の東京への移動。
すべて裏目に出てしまったのかもしれない。
何より彼女たちは変わってしまった。
「もろくて傷つきやすそうに見えて実は芯の強い女子高生」が、「どっかのカフェで文庫本でも読んでそうな清楚な女性」に変貌したのだ。
そのことをどうして批判できるだろう。
人は変わって当然だ。なのに、何だろうこの寂しさ。
『コール・ミー』のPVには青春が完璧な形でパッケージされている。
このとき、彼女たちはドラマーが腱鞘炎で脱退することになるのを知らないし、満を持して発表するアルバムが「ロックらしくない」と言われるのを知らない。
この曲がバンドの足かせになりうるのを知らないのだ。
曲の良さを伝えたいというまっすぐな思いが映像から伝わってくる。
それを見ると新たに胸を打たれてしまう。
この映像が、
そこに映っている20歳の女性たちが、
ワールドワイドウェブで届けられるデジタル情報の集積が、
こう叫んでいる。
私は、ここにいる。
映像だけでも残っていることを喜ぶべきなんだろうか。人なんて変わって当たり前で、何を嘆いてるんだと冷笑すべきなんだろうか。
どちらにもなれない自分は何を思えばいいんだろう。
バンドのホームページは間もなく閉鎖されるそうだ。