ちっとも謎めいてなくたっていいから、ずっと私だけのヒーローでいて。
私にとって、彼はヒーローだった。
つまんない日々を極彩色に染めてくれた、優しくて、謎めいたヒーロー。
「謎が多いほうが面白くない?知っていくのはゆっくりでいいんだよ」
そう言った彼は、本当に謎の多い人だった。
仕事もなかなか教えてくれなかったし、名前を聞いてもはぐらかされた。いつも飄々としていて、広い空を漂う雲みたいに掴みどころがなかった。
知りたくて、知りたくて、もっと知りたくて。
のめり込むように好きになっていったんだ。
少しずつ、少しずつ知っていき、何年も何年も一緒にいるうちに、大抵のことは知ってるし、もう謎はなくなっていた。あんなに遠くに感じていたのに、じっくりじっくりと近づいて、今では溶け合うようにわかってる。
「あ、音楽かけて」
茹だるような暑さの中、エンジンを掛けて、彼が言う。
私は迷わずミスチルを流す。
ドヤ顔で彼を見て、目を合わせふたり 笑った。
さて行きますか。
永い未来を誓いに、懐かしい街へ。
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サポートとても嬉しいです。凹んだ時や、人の幸せを素直に喜べない”ひねくれ期”に、心を丸くしてくれるようなものにあてさせていただきます。先日、ティラミスと珈琲を頂きました。なんだか少し、心が優しくなれた気がします。