【現代ファンタジー小説】祓毘師 耶都希の復讐(41)護衛してるわけね
すぐに車から降り、足早で勝手口付近まで。聴こえるはずもない家からの声に、耳を傾けた。
どう見ても不審者の私だが、その側道を近隣住民が誰一人通過しなかったのは幸いだった。
30分ほど経っただろう。家の中から、悲鳴のような声、ドタバタと階段を下りるような鈍い音。
その後、台所から「ありがとうございました」という女性の声が聞こえた。
咄嗟にその場を離れ、車に戻った。乗り込んだと同時に、出てきた三人を捉えた。張り込んでいる間、静命《せいみょう》術で奉術師としての命《みょう》を無にしているため、相手には気付かれていないはずだ。
歩く三人の道に平行している住宅街の道路を、無灯で車を進めた。
出来ればあいつらを写真に収めたいが夜の住宅街では、灯りも乏しい。小型カメラのため、もっと近づく必要がある。それに、奴らの交通手段が不明だ。車なら撮るタイミングがない。
悩んでいた中、三人は公園に入った。男はタバコに火をつけ電話を始めた。背の低い女はベンチに座り、背の高い女は遊具の支柱に背凭《もた》れていた。
(タクシーか!? )
時間があることに喜んだ。
公園に沿った路上に停車させ、降りた私は公園の土を踏んだ。のんびり近づきながら、奉術師の命《みょう》を解放させる。瞬間、背の高い女が私に気付いた反応を示している。
私は三人の命《みょう》を洞察した。背の高いスレンダーな女が建毘師《たけびし》、ベンチの女が命毘師、男は、一般人のようだ。
建毘師の女は、命毘師の女の前に立ち、構えている。
(そぉう、護衛してるわけね)
数メートル手前で足を止め、軽く三人を見渡す。公園の薄灯りで、今彼女らの顔が明確になった。
スレンダーな女は20代前半。顔つきからして美人系なのだろうが、威圧的な眼差し。
(こいつ、不愉快だ)
ベンチの女はまだ幼さを感じる高校生くらい、可愛い目をしているが不安を滲ませている。
(陽《よう》と同じ歳くらいかな。……この前、通達きてた子かしら!? )
男は少し離れた場所でタバコをくわえたまま、こちらを見ているが、公園の灯りが遠くハッキリしない。ただ中年であることは分かった。
(奉術師とつるんでる!? この男、何者? )
男はさておき、女二人に話し掛けることにした。
「あなたは建毘師《たけびし》!? ということは、お嬢さんが命毘師《みょうびし》ね」
驚いた表情で、立ち上がった若き命毘師。
「あなたは? 」
「私? 私は耶都希《かづき》、湊耶都希よ。祓毘師《はらえびし》なの。あなたは何て言うの? 」
無口で不安そうな目を向け続けている。
「隠したっていつかバレるんだからぁ。……確か報告来てたわね。えーっと……レイ……静岡の高校二年生、ハシガミレイ、だっけ!? 」
彼女の表情が変わるのを、見逃さなかった。
(この娘《こ》、素直ね)
「そぉー、あなたなの。逢えて光栄だわ。実は私、命毘師に逢うの、あなたが初めてなの。
あの男見張ってれば、もしかして現れるかもって……待ってた甲斐があったわ」
「……私を……私を、殺しに、来たんですか? 」
「あぁ、大丈夫よ、心配しないで。別に今あなたを襲うほど、私もバカじゃないわ。そこのお姉さんに力を奪われたら、困るしね」
なぜか、建毘師の女が力んだ。瞬間、左手の平からグリーン色の光が放出され、シャボン玉のようなオーラが高校生を包み込む。ナチュレ・ヴィタール(自然界生命エネルギー)のシールドだった。
命毘師を護るためなのだろうが、この女の行動にムッとした。
「だから、攻めるつもりないって言ってるでしょう! 」
「その割には、体の中に闇を溜め込んでいるようですね」
(そっかぁ、見えるんだったわね)「あぁー、そうね、三人分くらいはあるかしら。でもこれは依頼人のものだから、ここで使う物じゃないわよ」
実は違う。復讐のための闇ではない。復讐までは決意出来ない被害者遺族の闇だ。
これは、祖父から引き継いでいる慈善活動によるもの。カウンセルと称し、闇喰による悲苦《ひく》の緩和を不定期に行なっていた。一昨日、神戸の被害者支援センターで三名の闇喰を行なったばかりだった。
建毘師の後方にいる素直な命毘師が、突っ掛かってきた。
「では、何の御用ですか? もしかして、あの男性を殺《や》ったのは、あなた? 」
(あら、意外にハッキリ言う娘《こ》ね)