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【短編小説】No.13 色即是空なら是好日で

「久しぶりだな」
「おぉ!久しぶり!」
「何見てるんだ?」
「これだよこれ」
「またそれかよ。お前その行列見るの好きだな」
「面白いじゃん。ほら見て。あいつなんかすごい大きなエサ担いでるよ」
「欲張りすぎだろ」
「待ってるみんなのために一生懸命運んでるんだよ。いじらしいじゃないか。あ、あっちはほら。協力して運んでる。なにを運んでるんだろう?」
「わかんねぇけど、甘いものだろ」
「だな!あいつら甘いもの好きだもんな!」
「砂糖とか一発でいかれるよな」
「本当本当。それでね、たまにこうして邪魔したりするんだ」
「おいおい。壁なんか作っていじめんなよ」
「いじめてなんかないよ!試練を与えてるんだ」
「余計なお世話過ぎるだろ。うわっ!手に上ってる。気持ち悪」
「気持ち悪いとか言うなよー」
「あれ?お前、しばらく見ないうちに手がシワシワになったな。緑だった爪も茶色くなってるじゃねぇか」
「そうなんだよ。だからこうして邪魔するのに使ってるんだ」
「いい迷惑だな」
「いいんだよ!それでさ、最近は研究も進んでてさ、こいつらの生態がどんどん解明されてきてるんだよ」
「その生態、だれが興味あるんだよ」
「僕!でさ、その研究によると、こいつらは僕たちが思ってる以上にすごく賢いんだって」
「こいつらが?飯食って繁殖して以外にすることあんのか?」
「ちょっと馬鹿にしないでよね。こんなに組織化されたコロニーを何百年、何千年も維持してるだけでもすごいんだから。中には働き者のやつもいて、怠け者に怒ったりもするんだよ」
「へぇ。意外と個性とかあるんだな」
「そうなんだよ。個性もあるし、集団としての力も強い。農業もするし、戦争だってするんだよ。しかもそれだけじゃなくて、自分達のこと以外の動物や環境のことも守ろうとしてるんだって」
「守る?」
「なんかね、自分達が巣を作りすぎてるから、悪影響を及ぼしてるんじゃないかって心配してるんだって」
「いじらしいな」
「でしょ!それでせっせと掃除したり、緑を増やそうとしたり、啓蒙活動だってしてるんだよ」
「ふぅん。有り難いけど、それとこれとは別だよな」
「そこなんだよ!!有り難いけど、関係ないんだよ!!いや、無くもないか。無くもないけど僕たちは僕たちで生きてるし、こいつらに関係なく変化は起こるものなんだ」
「過大視してるんだな。生きてる期間が短いと、仕方がないのかもしれない」
「過大視かぁ。そうかもしれない。あれ?ところでなんで居るの?」
「たまたま通りがかったんだよ。いつものあれだ」
「あ、そうか。もうそんな時期か。早いね」
「月日の流れは早いよな」
「本当だねぇ。あれ?、なんだろう?列が止まったよ」
「本当だな。しかも、なんか数増えてないか?」
「増えてる。めちゃくちゃ増えてる。ねぇ。なんだか君のこと見てない?」
「俺?なんで俺なんか見るんだよ。何もしてねぇぞ」
「知らないけど、見てるよ。しかもなんだか騒いでる」
「なんだなんだ?気持ち悪いな。おぉ、そろそろ時間だ。行くわ」
「そっか。あっという間だったね」
「そういえばこの間の衝突事故で結構な数が死んだんだってな。俺たちの知り合いも死んだもんな」
「そうだったね。会えずじまいだったよ。僕たちはまた元気で会えるかな」
「大丈夫だよ。お前の好きなそいつらが守ってくれるんだろ」
「あはは。本当だね。でも正直なところ、責任を感じてもらうほどに関係ないとは思うんだけど、それでもやっぱりうれしいよね。一生懸命想ってくれることがさ」
「そうだなぁ。大事にしろよ」
「うん。大事にする」
「じゃあまたな」
「うん。またね」
 幼なじみを見送って、また視線を戻した。にわかに増えていた数が減り、またいつも通りの行列が、いつも通りの行動をしていた。
 いつかあの行列の中のものたちとコミュニケーションが取れたらいいなぁと、そんなことを思いながら心地よい眠りについた。

『すごかったねぇ。皆既日食』
『すごかった!次はいつ見られるかな』
『三百年とか四百年とか先らしいよ』
『えーそんなに長く生きられないよ』
『そこは気合いでなんとか!』
『無理に決まってるよ!!』
『あはは!無理か!』
『でもさ、三百年とか四百年とか先の人達も、こうして平和に空を眺められたらいいね』
『そうだね』

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