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【短編小説】No.7 河童 the 川流れ①

 僕は河童…のはずなんだけど、だんだん自信が無くなってきたよ。皮膚は緑だし、黄色のくちばしだってある。手は水かきで背中には甲羅。とどめに頭にはお皿がのっている。それでも自分が河童だと信じきれないんだからおかしな話だよ。
 だってここの人達は誰も信じてくれないんだ。いくら説明しても「オチが弱い」とか「ファッションセンスが悪いだけや」とか、そんなことしか言ってもらえないんだから。

 泳ぎが下手な僕が、尼崎の庄下川に流れ着いたのは丁度今から一年前だ。夏の暑い日で、日光浴でもしようかと川面に向かったんだけど、失敗しちゃったみたい。気が付いたら岸に打ち上げられていて、僕の周りを四、五人の人間が取り囲んでいた。全員変わった柄の服を着ていて、見るからに怪しい雰囲気だった。
 これはやばいと思ったよ。河童の世界では、人間に姿を見せるなんて言語道断。見世物にされたり迫害されたり、ありとあらゆる残虐な実験をされたりするから絶対ダメだと、散々に言われてきた。僕は心の中で叫んだよ。もうダメだー!ってね。

 だから派手な柄のティーシャツを着たおばちゃんの第一声には驚いてしまったんだ。
「あんたそんなダサい服着てるから溺れるねん」
「せや。どうせ溺れるならもうちょっとマシな格好せな」
あまりに驚いて思わず言ってしまったよ。
「いや、これは服じゃなくて皮膚なんです」ってね。
「んなアホな!」
 手を叩きながら爆笑しているおばちゃんは、散々に僕の頭をペシペシと叩いてこう言った。
「髪の毛もこないハゲ散らかしてからにー」
 みんな揃ってさらに笑うもんだから、ついつい「いや、これはハゲじゃなくてお皿で、ここが乾くと僕は弱っちゃうんです」
なんて、弁明までしちゃったよ。さすがにやばい!と思ったんだけど、おばちゃん達は何も気にしていなかった。
「ほな、そのハゲにビールでも注いだりましょかー」
 そんなことを言いながら僕の腕をつかんで、あれよあれよという間に僕は居酒屋なる場所へ連れ込まれていた。

 いやいや、もし僕が普通の人間だったとしてもこの対応はおかしいだろうと思うんだけど、ともかくビールという苦い飲み物を飲まされた。
 そして本当に頭のお皿にビールを注がれ、じゃんけんで負けた人が飲むという謎のゲームに巻き込まれた。派手なおばちゃんが代わる代わる僕の頭にキスをして盛り上がっているんだから、たまったもんじゃない。
「なんや!あんた金持ってないんか」
 そう言われたのは深夜も深夜。ヘトヘトになって意識が朦朧としていたときだった。
 どうやらこの店は、派手な服を着たおばちゃん達の中でも、一際派手な柄の服を着ているおばちゃんが経営しているお店らしい。
「ほな体で返してもらいましょか」
 こうして“居酒屋アルバイター河童”が誕生した。

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