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木で出来た果物

私は木工作者としてkinomonoというシリーズ名で木製果物のウォールデコレーションを製作しているのですが、今回はそのことについて。


私は果物というものがなんとも魅力的に見えて、
とても好きでした。
だからこそ、木を使ったものづくりをする中で,
「果物で何か作りたいなー」
という思いは強く、
でも…「いいアイデアがないなー」と
考えるばかりで何も出来なかったのです。

そんなある日、私は元美大生で絵画を学んでいたのですが、ふとセザンヌのことを思い出し彼の絵を見ていました。そうすると静物画のモチーフとして果物が出ているではないですか。その時1つのアイデアが生まれたのです。
「木で作られた果物を絵のように壁に飾ってみるのはどうだろうか?」と。
絵のように半分平面的で、でも木の素材感を感じられる半分立体的な飾り物。
そんな“木の果物”を壁に飾ってウォールデコレーションを楽しむ。
「これは楽しそうだ!」というのが、
このシリーズのきっかけでした

では、シリーズの名前をどうしようか?と、
悩み妻に相談してみると、
黙々と「果物」の語源を調べ始める彼女…
果物は「木の物」の意味で、
元は木の実を指したということらしい…
つまり、
「果物は木から生み出された物であると」

うん、よく考えれば当たり前だ…
いや、でも、まてよ…

そうか!

私が行なっている木を使って果物を作るという行為と、自然の木が果実を実らせる行為とが、
同じ「木の物」という言葉で繋がっている!
つまり、
・木で作られた(木製の)果物は
 「木で出来た物」→「木の物」
・木から生まれた(自然の)果物は
 「木から生まれた物」→「木の物」
これは面白い発見!
ということで、
名前はもう決まったも同然。
“kinomono”として、木製果物のウォールデコレーションシリーズを作り始めたのです。

そんなkinomonoシリーズは
セザンヌの絵画が出発点なので、木の色味にも注目し、“木の色”が大事な要素になっています。

木の色味は 飾っていると段々経年変化していきます。つまり、
“木の色は移ろい変化していくもの”

私が学生の頃、
志村ふくみさんという染織家の方の話に驚いたことがあります。
細かいことはもう忘れてしまいましたが、
そのエッセンスだけ私の中に残っているのです。
それは、

“安定した色は化学染料”
“移ろい変化する色は自然染料”

ということ。

ここにはどちらが優れているか?
という問いはありません。
違いがあるだけです。

ただ私は、美大生として油絵具を描いていて、
油絵具の強さに魅力を感じていました。
油絵具の強さ、それは
“数百年経っても色鮮やかに残るメディウムの強さ”つまり、安定した変わらない物の魅力です。

そこに魅力を感じていたからこそ、志村ふくみさんの“移ろい変化していくものへの視点”がとても新鮮だったのです。

最初の頃の木の鮮やかな色は確かに美しいものです。ですが、移ろいゆく木の色味から、自然が待つ留まらない変化についても味わって頂ければと思うのです。変わらないように固定化するのではなく、変化を味わう。そんなシリーズになっています。

(※こちらの記事の最後にもアイデアの正体としてkinomonoシリーズについて少し書いています
→記事 : デザインの奥義

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