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麹屋で働く大学生vol.1 -私はナマケモノでギズモで主任で-
ある日の夜、18時過ぎから始まる、大きすぎないテーブルを3歳から46歳までの5人で囲んだ夕食の時間。
大人から子供まで、喋り声の耐えない約2時間。
プリキュアの話から、オフグリット生活のために検討すべき電力関連の話まで、話題は尽きない。
そんな中で、私の顔立ちが何かに似ているという話になった。
次から次へ私の顔が似ているものが挙げられてゆく。
ナマケモノ、タヌキ、映画「グレムリン」に登場する架空の動物ギズモ、レッサーパンダ…。
最後にはInstagramのストーリーで、どのキャラクターが1番似ているのか友人たちも巻き込んで決定することに。
…
とまぁ、こんな会話で15分は盛り上がれる食卓もなかなかないのではないだろうか。
投票結果は、ナマケモノ、タヌキ、ギズモで、16票、8票、15票。
私はナマケモノとギズモに最も似ているようだ。
明日の朝礼でこの結果をシェアすることを想像するとおかしくて口角が少し上がる。
俯瞰してみるととても仲が良くて微笑ましい人間関係が育まれているが、私たちはお互い会って2週間も経っていない赤の他人同士である。
正確には、私たち、全員ではないが。
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私は今、麹屋で住み込みで働いている。
ここは愛知県西尾市、海辺近くにゆるりと店を構える「みやもと糀店」。
日々麹を仕込み、冬から春にかけては味噌作りのワークショップも毎週末に開く。
人々の話し声と先輩スタッフの説明する声にラジオ感覚で耳を傾けながら、私は仕込んだ黒麹の袋詰め作業をもくもくと進める。
ここへやってきてもうすぐ2週間。
仕事の内容も覚えつつあるが、
15キロはあると思われる黒麹の入った大きなバケツを保温棚の上の段に入れることや、
1メートル立方ほどの大きな蒸し器で蒸された大豆を網ごと持ち上げることはいまだにできず、
まさに"力"不足を痛感する毎日。
もちろん、知識の面でも知らないことは山ほどあり、先輩スタッフのつよぽんに1を聞くと10で返してくれて
日々、麹や関連する知識を大量に浴びさせていただいている。
麹仕込みの作業はつよぽんと2人で取り組むことが多いため、自然と話す時間も長くなる。
30歳を手前にしてこれまで多くの国を渡り歩き、自らの手で生業を営んできている彼の口から出る言葉には、
彼からしか生まれない説得力があり、
彼の話を具体的なストーリーとして楽しみつつ
自分の生きてきた人生との重なりを見出したり新鮮な発見をしたりしている。
ここでの黒麹仕込みやワークショップを支えてきた彼の任務は、本日でひとまず完了。2ヵ月の住み込みを終え、明日の午前にここを発つ。
そして明日からは、店主のたかしさんを筆頭に私は「主任」として黒麹仕込みに取り組むことになる。
これから約2週間、私以外に仕込みのお手伝いをする人はいないため、どんなに力不足でも「主任」になれるのだ。
私は、ナマケモノであり、ギズモであり、主任である。
これが私のアイデンティティであるわけではないが、
ここでは私はナマケモノでありギズモであり主任でいいのだ。
これが軽やかでおもしろくて心地良いからいいのである。
なんの捻りもないタイトルに中身のあるのだかないのだかぼやっとした日記が私の投稿1つ目となった。
布団に入りじっとしていると、扇風機の音だけが聞こえてくる。
一晩中鳴り止まない強の風音は、ブルーシートに広げられあとは翌日の袋詰めを待つのみの黒麹たちを想わせる。
明日はまた1人、家族のような安心感と頼もしさをもつ人を送り出す。
別れる前に、私はナマケモノでありギズモであり、主任という大役を果たすべく精進することをきちんと報告しなければ。