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【思考法・考え方】思考の整理学

【思考法・考え方】思考の整理学

こんにちは。本日は、外山滋比古(とやま しげひこ)さんの『思考の整理学』について、お話ししたいと思います。


 外山滋比古さんは1923年生まれで、東京文理科大学(現在の筑波大学の前身)で英文科を修められ、『英語青年』の編集長や、お茶の水女子大学などでの教職を歴任されました。専攻は英文学でしたが、それだけにとどまらず、レトリックや思考法、エディターシップ論、日本語論など、多岐にわたって独創的な研究成果を発表されてきた方です。エッセイストとしても著名で、平易な言葉で論理を展開するスタイルに定評があります。

その外山さんの代表作ともいえる『思考の整理学』は、1983年に出版されて以来、長く読まれ続けてきました。大学生協の売上ランキングなどで何度もトップに登場していることで有名ですし、「東大生協で一番売れている本」などとも言われます。ではいったい、どうしてこの本が長年にわたって読み継がれてきたのか。一言でいえば、「朝の時間を最大限に活用する方法」から、「思考と知識の使い分け」まで、人が自分の頭をどう使いこなすか、そのヒントがぎっしり詰まっているからだと思います。

今日の動画では、この『思考の整理学』のエッセンスを、ざっくりとまとめながら、それについて私自身が感じたことや、今の時代への示唆などを交えてお話ししてみたいと思います。


朝の時間の活用と“朝飯前”の再解釈

本書でまず印象的なのは、「朝飯前」という言葉を改めて捉え直している点です。朝飯前って、皆さんどういうイメージをお持ちでしょうか。普通は、「朝食を食べる前にできるくらい簡単なこと」という意味で使います。でも著者は、それはむしろ逆じゃないか、と言うんです。朝は頭がいちばん冴えているから、夜は難しく感じたことでも朝になればスルスルと解決してしまう。だから、朝食前という限られた時間に仕事を片づけると、“ちょっと難しい仕事”までもが意外と簡単に終わってしまう。そういう“朝の頭の効率”を存分に生かせるからこそ、結果として「朝飯前だね」となるのではないか。

私自身も、夜に考えたアイデアを翌朝見返してみると、「なんでこんなこと書いたんだろう…」と恥ずかしくなる経験が何度もあります。頭が疲れていると、どんなに論理的に考えたつもりでも、どこか筋が通っていなかったり、感情的に偏っていたりしがちです。それが一晩寝てスッキリすると、あっという間に修正できたり、そもそも問題自体が大したことじゃなく思えたりします。

一方、著者はさらに一歩踏み込んで、「朝食は抜いてしまう」くらいの勢いで、起きてすぐの時間に集中して仕事をしてしまう生活を20年続けている、と書いています。もちろん、健康面で合う人・合わない人はいるでしょうが、“朝イチで頭をフル回転させる”という考えは、十分試してみる価値があると思います。


「ほめる」ことが創造を促す

次に大切なのが、「どんな考えでもほめることが大切だ」という点です。これは、私たちの思考やアイデアは、ほめられることで一気に広がりを見せるという考え方に基づいています。人はネガティブな評価をされると萎縮しがちです。私も、何かアイデアを思いついて誰かに話したとき、「それはありえないよ」なんて返されると、一気に気持ちがしぼんでしまいます。逆に「おもしろいかもしれない」「いいところに気づいたね」と言われた瞬間、さらに工夫したくなるし、次のアイデアが芋づる式に出てきたりします。

もちろん、お世辞ばかりを言うのもどうかと思いますが、相手の考えのどこか一部でも面白いポイントを見出して、「そこがいいね」と伝える姿勢は、対人関係を円滑にするだけでなく、相手の思考を育む上で非常に有効だと感じています。“どんな考えのなかにも必ず光るものがある”という前提で相手に接してみると、私たち自身の視野も広がるように思います。


拡散的思考と収斂的思考

外山さんは、学校教育では正解を求める“収斂的思考”ばかりが訓練され、創造的な“拡散的思考”が磨かれないのは問題だ、と指摘します。拡散的思考とは、既存の枠から飛び出して新しいイメージや解釈を生み出そうとする力。たとえば、友人と雑談しているうちに全然違うアイデアが生まれた経験はありませんか。これがまさに拡散的思考が働いている瞬間なのだと思います。

一方で、私たちは受験などを通じて「いかに正解を短時間で導くか」を鍛えられます。これは数学などでは必須ですが、文章を書いたりアイデアを考えたりする際には、「正解はひとつだけではない」という世界観が必要です。外山さんは、小論文においても、多くの受験者が同じ結論に落ち着いてしまう現状を嘆いています。人それぞれ独創的な意見があっていいはずなのに、皆が正解を狙って似たような着地点になるからです。

私個人としては、特に社会人になってから、「正解がない」というシーンに何度も直面してきました。ビジネスで新規プロジェクトを立ち上げるときや、企画を提案するときには、誰も正解を知らないことが多い。そこで大切なのは、仮説を立ててトライし、修正を繰り返す拡散的思考です。でも、頭の中では「いや、正解があるはずだ」と思い込んでいると、一歩を踏み出せません。こういうときこそ、むしろ自由に発想してみることが大事なのだと痛感します。


コンピューターにできない“忘却”の力

さらに本書で重要なのが、「コンピューターと人間の違い」です。今やAIの技術が進んで、「コンピューターが人間の頭脳を超えるのではないか」という不安は、1983年当時よりもずっと大きくなりました。しかし、本書では、人間には“選択的に忘却する”力が備わっている点を強調します。コンピューターにとって“忘れる”とは、データを消去することですが、人間の“忘れる”はもっと無意識的で、“自分にとって有益なもの以外を自然に手放す”作業でもあります。そして、それこそが想像力や創造性を育む土台になる、と。

私の経験でも、いろいろな知識や情報を頭に詰め込んでいると、まるで部屋の中が散らかっているように感じることがあります。その結果、必要なものが見つからない。その点、「少し忘れる」ことでスペースが生まれ、新しい発想がすっと入りやすくなる。まさに「頭の断捨離」と言えるかもしれません。


知的メタボリックを防ぐための方法

著者が「知的メタボリック」という表現で警鐘を鳴らすのも、頭に情報や知識を詰め込みすぎることへの危惧です。溜め込んだだけの知識は、消化されない脂肪のように、思考を鈍らせてしまう。だからこそ、自然の仕組みに沿って適度に忘却していくことが大切です。よく知られている例が、レム睡眠で脳が情報を整理しているという話です。寝ているうちに、脳は必要な情報と不要な情報を振り分け、必要ない情報を“捨てる”というわけです。

しかし、現代社会は情報過多です。レム睡眠だけでは追いつかないときもある。そこで本書では、“散歩をする”“風呂に入る”“昼寝をする”“コーヒーを飲む”といったリラックス法を推奨しています。私も朝に散歩したり、夜に湯船にじっくり浸かったりする時間が、アイデアを生む“ゴールデンタイム”になっています。特に散歩は、ただ歩いているだけで頭がボーッとしてくるので、忘却と拡散思考が同時に進む感じがあっておすすめです。


ハイブリッドな知性をめざす

本書では「思考力と知識を融合させることで、新しい文化を作ることができる」という主張が繰り返しなされています。子どもの頃はまだ知識が少なく、好奇心や拡散的思考でどんどん新しいものを吸収する。けれど成長して大量の知識を得ると、かえって柔軟さを失ってしまう。これを外山さんは「ガソリンと電気モーターを使い分けるハイブリッドカー」にたとえています。つまり、知識を使いながらも、自分ならではの思考力を止めてはいけない。そうすることで、ガソリンと電気のいいとこ取りのような“ハイブリッドな知性や理性”が生まれると言っています。

ここは私たちがAI時代を生きるうえでも重要な視点だと思います。AIがいくら知識を膨大に記憶し、高速で処理したとしても、AI自身に主体的な“忘却”や“創造”はあまり期待できない部分があります。要するに、与えられたデータやアルゴリズムの範囲でしか展開できないことも多い。だからこそ、人間は自分のなかにある知識を必要に応じて大胆に取捨選択し、独自の着想を得るような“ハイブリッドな思考”を磨く必要があるのではないか、と感じます。


まとめ:『思考の整理学』が示す未来へのヒント

1983年に書かれたこの本ですが、AIによる仕事の代替が現実味を帯びてきた今の時代でも、というよりむしろ今の時代だからこそ、大きな示唆を与えてくれます。AIにはない“忘却”の力を活かして、拡散的思考をどんどん働かせる。とはいえ、私たちは大量の知識が簡単に手に入る社会を生きているわけです。その知識を“ハイブリッド”な形で生かしながら、自分だけの新しいアイデアを生み出していく。これが、外山さんの言う「新しい文化を作る」ことにつながるのだと思います。

また、本書のなかには東大生を相手に講義をしたときのエピソードも出てきますが、そこには外山さんが若い人たちに向ける温かな眼差しと期待が感じられます。日本から世界に発信してほしい、新しい文化の創造者になってほしい——そうしたメッセージは、時代を経ても色褪せません。むしろ、国境を超えたネットワークが当たり前の今だからこそ、一人ひとりが“自分にしかない考え”を世界に向けて発信していくことに、大きな意味があると私は思います。

最後に、『思考の整理学』は文体が平易で読みやすく、例もユーモアがあって面白いので、ふだん読書に慣れていない人にもおすすめできる一冊です。私自身も、改めて読んでみて「朝は頭が冴えているからこそ、少し早起きして仕事をしてみよう」と実行に移せたり、「相手のアイデアのいいところを見つけて、積極的にほめる」姿勢を意識したりと、日々の生活・仕事に活かせるポイントがたくさんありました。もしまだ読んだことがない方がいらっしゃれば、この機会にぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。


というわけで、今日は外山滋比古さんの『思考の整理学』をご紹介しました。情報過多の現代において、一度頭を空っぽにすること、つまり“選択的に忘れる”ことや、拡散的思考を積極的に育てることは、私たちが創造的に生きるうえでますます大切になっています。AIをはじめとするテクノロジーが急速に進化する時代に、自分なりの独自性をどこまで発揮できるか——そのヒントがこの本には凝縮されているように感じます。

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