(3)見たかった純白の夏服
光瑤の等身大パネルが玄関から第1会場へ行く通路に展示してあった。
記念撮影ポイントらしくスマホ台が用意してある。
ミュージアムディスプレーの定番であり夏休み向けにほどいい企画だ。
「身長176cm」「明治40年白山登山を前に万年寺にて」と説明があるが少し物足りない。
ショップではなくミュージアムがこうしたものを作るなら学習的な要素を付加した説明があってもいい。
右手の網代笠、背負った茣蓙、足元の草鞋。左手を腰に当ててポーズを決め微笑んでいる。117年前の登山ファッションがこれなのだ。自分で演出してほかの誰かに蓋を切って(シャッターを切って)もらったのだろう。
当時の植物採集者らのいでたちと比べてどう違うのか、比べてみても面白かったのではないか。
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光瑤は3年後の明治43年(1910年)夏、槍ヶ岳登山のときも白の夏服を着ていた。針ノ木越えのあと籠川の草原に出たときの紀行文にこうある。
立山温泉を出発する時にも「茂り合う緑草の反映で白の夏服が緑に見え」ると記している。光瑤にとって白服は夏の定番だったのだろう。
それにしても、せっかくの等身大パネルは「純白の夏服」からほど遠い。もう少しメリハリをつけてさわやかに仕上げてほしかった。
あまりエラそうに言うのも気が引けるので、補正例を示しておこう。今はやりのカラー化を手作業で挑戦してみた。
実は今のAI技術ならもっとすごい。白黒写真のカラー化を無料で行うWebサイトがあり、切り抜き前のこの写真を試してみたら数秒ですばらしいカラー写真になった。
緑に囲まれた万年寺の戸口に立つ光瑤の何と凛々しいことよ。
ここではそのAIカラー化写真の紹介をあえて控えるが、ミュージアムの展示手法も今後こういう技術を応用して高度化していくことだろう。
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さて写真の補正の話をしたついでに光瑤のポートレートについて触れておこう。
第3会場の入り口にあった上半身のポーズ写真は、階調が今一つなうえに傾いている。やはり鉛直をとって普通の階調で扱うのが適当であろう。福光美術館のWebページでもこの写真が単色で使われているが、正直に言ってこれではよろしくない。
対案を考えようとしていたところ、2017年の石川県立美術館の図録『燦めきの日本画 : 石崎光瑤と京都の画家たち』に適正な例が掲載されていたので、比べておこう。
この写真は下部に絵を配した縦構図だ。背景に騙まされやすい「鉛直」ラインがいくつもある。光瑤の視線はやや外に逃げている。右手も画面左寄りにある。したがってバランスをとるためのトリミングが非常に難しい。さらに白っぽい着物を着ているために階調補正も難しい。
光瑤140年展はつくづく写真に落とし穴が潜んでいる。(つづく)
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傾いているポートレート写真がないわけではない。意図的に傾け、視線を上に向けて未来を感じさせる手法がある。しかし、この光瑤の肖像写真は傾きがないほうが断然いい。この白黒写真のホワイトは平積みのやや下の部分である。
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