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20161130からの手紙
今年は冬が来るのが遅い。
秋から冬へのグラデーションはひどく曖昧で、冬を知るきっかけなんていうのはひどく些細なものばかりだ。吸い込む空気に痛みを覚えるようになった瞬間、吐き出す息が白くなった瞬間、グレーがかった世界に寂しさ以外の何かが混じった瞬間、夜の密度が上がったことに気づく瞬間、誰かと誰かが身を寄せ合って、楽しそうに笑う瞬間。
瑣末なこと、だろうか。
君が生きていることや、僕が生き続けていること。いつかどこかの選択が違えばここにあったかもしれない今や、誰も幸せになっていないかもしれない明日。それらを思うこと、想うこと。そこには意味も意義もないのだろうか。誰かの声に耳を傾けて、いつかの愛を思い出したりすることにも。
誰にも見つけてもらえないまま死んでいった誰かのことを語るのは、妄想や御伽噺の類と一体何が違うというんだろう。
むかしむかし、繋いだことがあったはずの手のひらの記憶はもう微塵も残っていない。その場合、これは現実なのか非現実なのか、一体どっちになるんだろう。
冷たいリビング、どこにも行けない廊下、首を締めるキッチンと狭いベランダ。鍵のひとつもついていないドアは、侵入を阻めないくせに重くて開かない。全部燃えてしまえばよかったのに、記憶の炎の中であなたはバケツを抱えて火を消している。誰のために、何のために、あなたはどこへ行きたかったの?
僕はあなたを殺せなかった。
君、なんていうのは、きっといつか分岐したあなたのことで。
冬になれば春を思い出せるから、僕は今も冬を待っている。
春になればどこかに行けるから、君は今も春を消そうと頑張っている。
僕らはいつまでここにいるんだろう。季節と季節の間の曖昧な時間。
銀世界に行けたなら、世界はぐるりと変わるのだろうか。
いっそ僕の首を締めて、真っ白な世界に放り出してくれたらいい。
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2016年11月30日のnote、でした。
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