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vanilla

黒い影が僕らを呑んだ。絶望とも恐怖ともつかないそれは単なる不安とも異なって、僕らから声を奪った。

誰のことももう信じられないと思いながら生きていた君に、僕があげられたものは一体何だったのだろう。それから、本当はあげるべきだったものは、一体何だった?

トーストの焼ける匂い。珈琲にミルクが溶けていく渦巻き。冷蔵庫でちょっと硬くなってしまったゼリーみたいな安物のジャム。

本当はそんな小さな、何てことない日常を一緒に過ごせればよかったのかもしれない。

それに幸せを付け足して、二人で笑っていられたりしたら幸せだったのかもね。

けれど僕には、君には、それだけじゃあ物足りないような気がしていたから。

鉢植えの中に隠した手紙を見つけてきてねって言い残して消えた君の残り香だけを、僕は今も覚えているよ。


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最後まで幸せになれなかった僕たちへ


読んでいただいてありがとうございます。少しでも何かを感じていただけたら嬉しいです。 サポートしていただけたら、言葉を書く力になります。 言葉の力を正しく恐れ、正しく信じて生きていけますように。