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『部長会議はじまります』 〜『ジオラマ事件』の犯人は誰だ!?

こんばんは、ことろです。
今回は『部長会議はじまります』という本を紹介したいと思います。

『部長会議はじまります』は、著・吉野万理子、装画・イシヤマアズサのヤングアダルト小説です。
前半と後半でわかれており、前半は六章で文化部の話、後半も六章で運動部の話となっています。タイトルの通り部長会議が行われるのですが、この詠章(えいしょう)学園中学校には文化部部長会と運動部部長会というものがあり、それぞれの部活の部長が集まって会議をすることがあります。今回はある問題を解決するために部長会議が開かれます。

前半の登場人物
藤本賢哉(ふじもと けんや)……美術部部長。
森下花火(もりした はなび)……美術部部員。
桂木史帆(かつらぎ しほ)……華道部部長。文化部部長会の会長もしている。
金城幹太(かねしろ かんた)……理科部部長(生物班リーダー)。文化部部長会の副会長もしている。
矢車昴(やぐるま すばる)……理科部副部長(天文班リーダー)。史帆の彼氏。
相楽夢架(さがら ゆめか)……オカルト部部長。
遠江美和子(とおとうみ みわこ)……園芸部部長。

後半の登場人物
尾神啓輔(おがみ けいすけ)……野球部部長。運動部部長会の会長もしている。
小寺優(こでら ゆう)……卓球部部長。
東山亜李寿(ひがしやま ありす)……卓球部エース。
山戸谷モニカ(やまとや もにか)……サッカー部部長(兼マネージャー)。
阪上明音(さかがみ あかね)……和太鼓部部長。
涌井高地(わくい こうち)……バレー部部長。
滝桐吾(たき とうご)……バスケ部部長。
宮本剣(みやもと けん)……新一年生。足の手術をして松葉杖で部活動を見て回る。


前半『部長会議はじまります』のあらすじは……
毎年、文化祭が近づくと、文化祭当日に中庭と階段をどんなふうに飾り付けるかまとめた美術プランをわかりやすくジオラマにしているのだけれど、今回そのジオラマにいたずらがされていて、美術部三年生メンバーを模した小さな人形が紛失していたのと森下花火のジオラマが置かれていた部分に赤いポスターカラーが塗られていて、まるで血のようになっていた。それを『ジオラマ事件』と呼び、美術部部長を筆頭に犯人探しをすることになった。
部長会議を開いて、それぞれの部でも話し合ってきてくださいと言われ、何か手がかりがないかそれぞれの部でも話し合うことに。
すると、オカルト部がジオラマを見に行ったときに、金色の星のビーズのようなものを発見。報告する。
次に園芸部でもほうきなどを入れている用具入れに、ジオラマの人形が入った袋が置かれていて、それを報告。手がかりが見つかっていくが、犯人は未だ不明。
実は、部長会会長の桂木史帆がひみつを持っていて、その罪悪感に苛まれて告白しようと決意する。
副会長の金城幹太に相談しようと打ち明けたところ、金城は学校を早退する。
金城もまた『ジオラマ事件』のひみつを持っていたのだった。
果たして、この事件の犯人は誰なのか?
事件の真相は?
部活はまとまるのか?
というお話。

後半『部長会議は終わらない』のあらすじは……
前半の事件から翌年、学年が上がり、三年生になった(前半の子たちからするとひとつ後輩の)子たちの話で、今度は運動部の話。
卓球部と和太鼓部が練習で使っていた第二体育室(体育館を少し小さくしたもの)が老朽化で取り壊されることになって、予算的に厳しいのでそのまま新しい建物は建てない予定らしく、練習場所を自分たちでやりくりするために部長会議を開いて解決してくれと先生に言われてしまった運動部は、第一体育館とグラウンドを何部が何曜日にどんなふうに使うのか決めなくてはいけなくなった。
それぞれの部に持ち帰って話し合うも、部活に真剣に取り組んでいるところと、そうでもないところ、あるいは今までの練習がキツくてもう少し練習日が減ってもいいのになと思っていた本音や、逆に今までそんなに励んでなかったけれど練習日が減るのは嫌など、いろんな本音が見えてきて、部長は部をまとめるのがこんなに難しいなんて……と四苦八苦する。
それと並行して進むのが、新しく一年生になった男子生徒・宮本剣のお話。彼は骨の病気で足を手術したのだけど、元々は卓球ですごく強い選手だった。足が使えなくなって卓球は諦めたのだが、他のスポーツもやってみたいと思い、松葉杖をつきながらいろんな部活に顔を出す。部活を見学したり、部長と話をしていく中で、だんだんと入りたい部が決まり、入部届を出す。また、彼に関わった部長たちも、普段の練習と並行してどういうふうに障害者スポーツを取り入れるか一瞬でも真剣に考えたりして、今までにない可能性なども感じるようになっていた。新しい扉を開くことは時にこわいけれど、新しいことに挑戦しないのは怠慢なのではないかという厳しい意見を胸に、みんながそれぞれに活躍していくのであった。


この小説の大事なところ(ポイント)は、部長というリーダーを務めるときに、いろんな苦労があって、責任もあって、ときに苦しくなるのだけど、「決めつけ」だけはよくないんだなということです。これは中学生だからではなく大人でもよくあることなのではないかと思うのですが、たとえば犯人探しをしなくちゃいけないとか、部長がみんなを引っ張っていかなきゃいけないとか、本当はそんなことないんですよね。もちろん、必要なときだってあると思います。でも、この物語で、そもそも犯人探しって必要だったのかなという結論に至ったように、感情論で決めつけて犯人を探し出してこらしめてやる! という行動は誰も幸せにはしません。どうしてそうなったのか話し合うことは大事ですが、実は事件という大きな出来事にしてしまったのも、その人の決めつけによるものなんですよね。
そして、部活を自分と同じように一生懸命やってるように見えるから目指しているものも同じだろうと思うと、齟齬(そご)が生まれます。本音って見えないものだから、本当はこんなに頑張りたくないと思っているかもしれないし、逆につまらなさそうにしているからって部活が嫌いかというとそうでもないんです。がんばりたい自分もいるんですよね。
そうやって、いろんな意見や思いの人がいて、正反対のことを言われたりするのを一つの意見としてまとめなくてはいけないリーダーは大変だと思います。熱心にこちらの話を聞いてくれる人もいれば、興味なしと拒絶してくる人もいます。何かを選べば何かを捨てることになる。それをわかった上で決めなければいけないのは、リーダーの責任です。
けれど、そうやって苦労した先に楽しい時間があったり一致団結できた喜びがあるのだと思います。みんなの気持ちがひとつになることなんて、ほとんど奇跡に近いけれど、それでも何度でも部長会議を開き、それぞれの部活でも話し合い、自分一人でも考え、解決していったことは、大きな力になると思います。

松葉杖の宮本剣くんの話も大事なことだなと思います。
大好きだった卓球を諦めたこと、それはもう楽しくなくなったからだそうですが、足の手術をして出来ることが変わっても、何かやってみたいと新しい扉を開くことは、人生のなかでとても大事なことだろうと思うのです。絶望した先に何を見るのか。それが、その人の人生を決めるのかなと思います。でも、人生は何度でも新しいことに挑戦していいのです。いくつになっても、どんな小さなことでも、何か挑戦してみる。それは生きる活力になりますし、目標にもなります。夢にだってなるかもしれません。
私は、夢はないならないで構わない、生きているだけで大変で素晴らしいことだと思う人間ですが、ちょっとつらいことがあったとき、夢があれば心に引っ掛かりができて、思わぬ方向に上がってこれるときもあると思っています。夢のせいでつらい思いをしているのならやめたっていいし、それでも諦め切れないのならその夢が好きってことでもあると思うから、休みながら進めばいいと思います。
これは戒めでもありますが、「今のままでいいっていうのは、新しい扉を開けようとしない『怠慢』なんじゃないの?」というセリフがあって、なかなかに胸にくるものがありました(笑)今のままでいい、こわいから、きついから、もう少しこのままでいたい……そう思う癖は私にもあります。でも、そんなときは、その目標が今の自分には高すぎるのかもしれないと思って、もう少しハードルを下げたものに
挑戦したりもします。とにかく動くことが大事なのでしょうが、そうできないこともありますよね。だからこそ、挑戦できたときは「すごい!」と自分を褒めてもいいのだと思います。そして楽しむこと。これが一番なのですよね。


いかがでしたでしょうか?
部長会議という、部活動の部長が集まって会議を開くことに焦点を当てた小説はそうないと思うのですが、部長たちの苦労やそれぞれの部活の雰囲気などリアルでしたし、懐かしくもあって、にぎやかで、面白かったです。
私は中学のとき卓球部で、それこそ体育館より小さい武道場を使って剣道部と半分こして使っていました。懐かしい。それが取り壊されるとなるとさみしいものがあっただろうな〜と感情移入しちゃいました。
また、部長をしないか? と前部長に言われたこともあったりして(友人に譲りましたが笑)私が部長をしてたらどんな感じだったのかな〜と思ったりもします。でも、適材適所、友人が部長でよかったなと今でも思います。

これだけの登場人物をひとりひとりにフォーカスを当てながら、事件まで解決しちゃうなんて、と作家の実力にも拍手です。
朝日中高生新聞で連載したものを加筆して本にしたそうなので、リアルな中高校生に読んでもらうことから気合いも入っていたのではないでしょうか?
学生たちがこの物語を読んでどう思ったのかも、個人的には知りたいですね。

それでは、また
次の本でお会いしましょう〜!


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