『イーブン』 〜対等な関係になるには
こんにちは、ことろです。
今回は『イーブン』という本を紹介しようと思います。
『イーブン』は、著・村上しいこ、装画・まめふくの児童文学小説です。
全9章から構成されており、学校に行けなくなった中学一年生の女の子を中心に物語が展開されていきます。
主人公は、美桜里(みおり)。最近、父親が母親にDVをしたことにより両親が離婚、今は母親と暮らしています。そのせいではないのですが、学校へ通うことができず、昼間はおばあちゃんのところへ預けられます。仲の良かった風花とは疎遠中。
美桜里のママは、スクールカウンセラーをする傍ら女性の人権を守る活動もしており、人の痛みに寄り添える人。しかし、元・旦那とは言い争いが絶えず、仕事とプライベートでは少し顔が違うところもあります。
高校生の頃に電車で痴漢に遭い、それがきっかけで男性恐怖症になった経験も。
美桜里のパパは、テレビ局に勤めています。いつからか美桜里のママと口論が絶えず、DVまでしてしまい、離婚することになりました。親権はママにありますが、面会はさせてくれるので美桜里とは会えます。子供の頃、親に虐待を受けていたことがDVを発症させるきっかけになっています。
美桜里のおばあちゃんは、ママのお母さんで、本に出てくるような優しく可愛らしいおばあちゃんではなく、どこにでもいる普通の老人で、ママとは昔から関係が悪く、美桜里には優しいけれど、ママとは会話が弾まず口数が少なくなります。たまに編みぐるみやマスコットキーホルダーを作っては手作り市で出品しています。
貴夫(たかお)ちゃんは、小柄なおじさんで五十七歳。トムの保護者的な立場の人。美桜里のおばあちゃんとは手作り市の出店で知り合って二十年来の友人。キッチンカーでカレーなどを提供しています。
トム(夢登)は、十六歳の男の子。学校へは通っていません。壮絶な過去を持ち、一人でいるところを貴夫ちゃんに声をかけられキッチンカーを手伝うことに。美桜里にもちょっかいを出します。
風花は、美桜里の友達。だったのですが、男子がふざけて開催したブサイクコンテストに美桜里のブサ顔の写真を男子に提供して、そのせいで美桜里がノミネートされてしまったことから、美桜里は怒り、学校へ行かなくなり、疎遠になっています。美桜里いわく自己チューな女の子。面食い。
物語は、美桜里の家に空き巣泥棒が入ったところから始まります。
家にいるのは美桜里一人だけ。ベッドで寝ていたところ、一階からパリンとガラスが割れる音が。目が覚めた美桜里は機転を効かせ、自分のケータイから家の留守番電話に「パパと今から帰るね」とメッセージを入れます。犯人が聞いてくれているのを期待して。
そのあと、すぐさま110番通報します。
電話が功を奏したのか犯人は逃走。その時に後ろ姿を見たのですが、それはカレーライス(スプーン付き)のイラストがプリントされたジャンバーだったのでした。
こうなってしまっては、ママも気が気ではありません。また泥棒が来たり犯罪に巻き込まれたりしないよう、美桜里はおばあちゃんのところへ昼間行くことになりました。
最近の美桜里は、友達やクラスメイトとのいさかいで学校に行くことができなくなり、昼間はずっと家にいるのです。勉強していたりカウンセリングを受けたりしているのかはわかりませんが、おばあちゃんのところへ行くことになってから、美桜里の生活は変わっていきます。
あるとき、おばあちゃんが知り合いを美桜里に引き合わせました。
それが、貴夫ちゃんとトム。
一緒に焼肉を食べにいきます。
貴夫ちゃんとおばあちゃんは、手作り市で知り合って二十年ほど経つそうで、トムはいろいろあって貴夫ちゃんと知り合い、貴夫ちゃんが出すキッチンカーのお手伝いをしています。
本当は小さい頃美桜里も貴夫ちゃんに会ったことがあるのですが、美桜里は覚えていません。
ほとんど初対面の二人ですが、だんだんと仲良くなっていきます。
キッチンカーの二人と並行して、美桜里はパパとも面会日に会っています。
パパのDVがきっかけでママと離婚することになり、面会日以外ではパパは美桜里とは会えません。
今は美桜里が不登校な分会いやすくなっていますが、不登校なことを自分のせいだと思い込んでいるパパは、美桜里が学校にどうやったら行けるのか思案します。
美桜里は学校に行けないけれど、学校が嫌いになったわけではないので行こうと思えば行けるのです。ただクラスメイトとの折り合いをどうつけるかが問題なだけで。
美桜里は、ブサイクコンテストなるものを男子がふざけてやりはじめて、それに写真を回され、コンテストにノミネートされてしまったことに腹を立て、そんなくだらないことをしている男子にも、写真を載せた風花(友達)にも嫌気がさしています。
そして、そのことを、まだ誰にも話せないでいるのでした。
ある日おばあちゃんが手作り市に美桜里を連れてきてから、キッチンカーを手伝う流れになります。
トムは学校に通っていれば高校生。美桜里より少し大人です。ぶっきらぼうなところもありますが、基本はやさしく声もかけてくれます。複雑な家庭環境で育ち、施設にも入りましたが、貴夫ちゃんと出会ってからはキッチンカーを手伝いながら社会勉強をしています。
かたや美桜里は中学一年生。まだまだ子供です。少しずつトムとも仲良くなっていくのですが、その際にトムから「イーブンな関係」について教わります。美桜里がまだトムに対して心を開ききれてないとき、トムはイーブンな関係になれてないからだと言います。話したいことがあるのに、まだ信用できてなくて、心を開けなくて話すのをためらう。いつか話せるようになったらいろいろ教えて、とトムはやさしく言ってくれるのでした。
美桜里のママは、スクールカウンセラーをする傍ら女性の人権を守るための活動もしています。差別を無くそうと奮闘しているのです。
美桜里は、パパと面会して話すことでパパがどんな風に考えて行動しているか、少しずつわかるようになっていきました。だからこそ、美桜里はパパだけでなくママも悪かったと気づけます。口論するきっかけになったのはママの態度が悪かったからなのですから。もちろん、DVはいけません。ですが、ママの言葉も確かにパパを傷つけていたことは認めなければいけません。
今までは子供だったせいもあるのでしょうが、うまく言葉にできないし、見て見ぬふりをしてきた美桜里がちゃんと家族と向き合って言葉を発するのも、トムからイーブンの話を聞いたからなのではないかと思います。親子でもイーブンな関係は作れる。いや、むしろそうじゃないと支配関係になってしまう。親子はきちんと互いの心を開き、思いやりつつもきちんと自分の意見を述べることで関係性が健全でいられる。恋人や夫婦でも同じですね。一対一の関係でイーブンになれなければ、それは健全な関係ではない。
そういうことを、美桜里は学んでいきます。
風花との関係もそうでした。
風花は小学校からの友達で、中学に入ってからも卓球を続けようねって約束したのに、美桜里に断りも入れず陸上部に入りました。いわゆる面食いだった風花は、イケメンのカサベ君に陸上部に入らないかと誘われたので断れなかったと言っています。
ブサイクコンテストも、絶対見せないでねって言ったブサ顔の写真を断りもなく男子に見せていたのです。挙げ句の果てには、これが美人コンテストだったら怒らなかったでしょ?って、男も女もそんなもんだよと、男子からはそもそも性格がブスだとまで言われてしまいます。
風花は美桜里に言わせれば、面食いで自己チューな女の子です。世界は自分で回っているのです。そんな子と正面切っていがみあってもしょうがないと、ある日美桜里は気づきました。そもそも相手はなんとも思ってないのだから、私がいじけてるだけにしか映らない。それは自分が惨めだと。自分が大人になって、風花の相手をしてあげるくらいのつもりでないといけないのだ、と行動に移していきます。これも、トムがイーブンな関係について教えてくれたから気づけたことです。
イーブンな関係は、もっと発展していきます。
美桜里のママがやっている女性の人権を守る活動で、夜の駅前広場でデモをやることになったのです。
しかし、なかなか市からの許可がおりません。
ママは、パパとの関係も疲れ果てていましたし、この活動についても人力を尽くして疲れていました。
その上、美桜里が学校に行けない問題も出てきて、頭がいっぱいです。泥棒にも入られました。
ママは、高校生の頃、電車通学で痴漢に遭い、男性恐怖症から彼氏を作るどころか男性と会話すらままならなかった日々を過ごしています。おそらくそれがきっかけで女性の人権を守る活動をはじめたのだと思われますが、これもイーブンな関係を作るための活動だと思います。女性がこれ以上性被害に遭わないように、どうすればいいのか。自分も元旦那からDVを受けています。もちろん、男性が性被害に遭うこともあるので、男女共にどうしていけばいいのかということにはなるのですが。
美桜里がママとイーブンな関係を作ろうと努力したおかげで、ママの悩みも少し軽くなります。無事に市から許可も下り、イベントが開催できるようになって、美桜里は初めて自分のお母さんがこんなに世の中の女性の拠り所になっていることを知りました。それは誇れることだと思います。
人は一人の人間の中にいくつもの顔を持っています。しかし、どんな顔を持っていたとしても、誰かときちんと対等な関係でいられることは大切です。
自分の生活や将来のため、好きなこと(活動)をしていくためにも、自分の意見をきちんと言えることは大切で未来を作っていくことに他なりません。
イーブンな関係を作ろうと努力していく美桜里の将来がどうなっていくのか、ぜひ読んで確かめてください。
空き巣泥棒の犯人もラストでわかります。これはトムの人生に関わる問題でした。
美桜里は学校に行けるのか、パパとママの関係は良くなるのか、明るい想像をしたいと思います。
さて、いかがでしたでしょうか?
イーブンな関係という、大人でも作るのが難しい、けれどとっても大切なことを、この本は教えてくれています。
とても読みやすく素敵な児童文学でした。
私も誰かと仲良くなるときに、この本を思い出したいです。
それでは、また
次の本でお会いしましょう~!
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