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「ご当地モノ」の難しさについて

先日、「ある地方の町を舞台にしたストーリー(映像作品)のスタッフを務めたばかり」という人と話をする機会がありました。
いわゆる「ご当地モノ企画」ですね。

地元の人たちの協力を得ることもできたそうなのですが、
「これが、なかなか大変で……」
というお話でした。
それというのも、地元の皆さんが作品内で「ここを見せたい! 強調したい!」というポイントを取り入れていくことで、作品が「物語」ではなく、観光紹介ビデオ的なものに近づいていってしまったというのです。

つまり、「名産品や、有名な観光地を少しでも多く映像に入れることで、町の魅力を伝えたい」という地元の皆さんの考えと、「ストーリーをより面白いものにしたい」という(主に外部から来た)スタッフの思いとがうまく噛みあわなかったということですね。

ご当地モノに限らず、実在の企業や人物をモデルにした作品でも、似たようなズレが起きたという話を何度か耳にしたことがあります。
例えば、企業側、モデル側の人たちはネガティブな要素を作品内で描くことに反対するけれど、そうなるとストーリーの起伏が小さくなるため、すりあわせに苦労する……ということがあるようです。

こういった話を聞くと、私は映画『幸福の黄色いハンカチ』のことを思い出します。

1977年公開の山田洋次監督の代表作のひとつで、主演は高倉健さん。
この作品の名シーン(上の写真の、黄色いハンカチがたなびくシーン)は、北海道の夕張で撮影されています。
公開から約四十年、『幸福の黄色いハンカチ』をきっかけに何万人もの人が夕張を訪れていることでしょう。
高倉健さんが中国で大人気ということもあり、最近は中国から観光に来た人も数多く夕張を訪れるそうです。

私の記憶が確かならば、『幸福の黄色いハンカチ』の中に夕張の名所や特産品を強調するようなシーンはまったくありません。
映画を支えているのは、あくまでも「胸を打つ物語」であり、その物語が夕張の名を広め、観た人々を「夕張に行ってみたい」という気持ちにさせたわけですね。
大ヒットアニメ『君の名は。』をきっかけに、舞台になった岐阜への”聖地巡礼”現象が起きたのも、「観光地として岐阜に惹かれた」というより、「夢中になったストーリーの舞台だから訪ねたい」と思いが基になっているはずです。
ですが、「ご当地の皆さん」にこの事を分かってもらうのは、おそらく簡単なことではないのでしょう。

こんなことを考えているのは、私が今、noteでご当地モノの小説を連載し、その映画化も目指しているからです。

率直に言って「ご当地映画」は、舞台となった土地では盛り上がりを見せても、その熱が全国に広がるということは珍しいと思います。
その要因のひとつが、上記の”ズレ”なのではないかと……。

「ご当地モノ作品が目指すべきもの」を「ご当地の人々」に理解してもらうためには、しっかりとコミュニケーションを取り、言葉を尽くさなければならない。
……ということを、今のうちから心に留めておこうと思います。

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中川千英子(脚本家)
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