ご質問にお答えします!『登場人物が別人になりすましている場合の表記方法』
脚本家志望の方からこちらのご質問がありました。
ご質問の意味を、私が正確に理解できているのか少々不安なので、まずは私の言葉で内容をまとめ直させてください。
1)質問者さんは、「登場人物による作り話」(=現実には起きていないこと)の中身を映像にして、観客に見せようとしている。
2)上記1)の作り話の中で、語り手にあたる登場人物は、自分とは別人になりすまして行動している。
この前提で回答します。
ご質問にあるような表現をする場合のマニュアルや、「唯一の正解」が存在するわけではないので、あくまで「中川ならこう書く」という例としてお読みください。
まず上記2)に関してご説明します。
「登場人物・山田太郎が、一部のシーンで架空の人物・佐藤明になりすまして登場する」という場合、人物表は私なら以下のように書くと思います。
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山田太郎(30) 会社員
佐藤明(30) 山田太郎がなりすます架空の人物。医師
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このケースでのト書きですが、架空の人物・佐藤明の初登場シーンを以下のように描くと思います。
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佐藤明(30)(に扮した山田太郎。以下、「佐藤」と表記)が歩いてくる。
佐藤「おはようございます」
田中「ああ、佐藤さん。おはようございます」
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このようにト書きに書くならば、架空の人物である「佐藤明」を人物表には載せなくても良いようにも思います。
上述の通り、「唯一の正解」がある訳ではないので、この辺りは書き手の判断次第だと思います。
続いて上記1)についてです。
私が書くならば、該当シーンを観客が視聴する時点で「このシーンは、登場人物による作り話だ」と認識させたいのか、あるいは、視聴の時点では観客に作り話だと分からせたくない(=後で、種明かしとして「あのシーンは作り話だったのか」と分からせたい)のか、によって表記方法を変えます。
後者の場合(=作り話だと分からせたくない)ならば、特別な記述はしません。
種明かしシーンまで読み進めば、スタッフ、キャストは自ずと「つまり、あのシーンは作り話だったのか」と理解できますし、観客も同様だからです。
これに対して前者の場合(作り話だと視聴の時点で分からせたい)ならば、以下のようにト書きを書くのではないかと思います。
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〇A社のオフィス
以下、山田太郎の作り話であり、現実ではない。
(特定のフィルターをかける等して、現実シーンと区別する。)
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以下は、1)についての補足です。
「ミステリージャンルの映像作品において、登場人物の作り話の中身を映像として観客に見せるのは”アンフェア”である」という考え方も存在するのはご存知でしょうか?
(この点を把握した上で質問なさっているのでしたら、以下は読み飛ばしてください。)
例えばミステリー作品において、「殺人事件の容疑者が、事件発生時刻に現場から100km離れた場所にいた」というアリバイがあるとします。
このアリバイさえ崩せれば、容疑者が犯人だと特定できるのだとして、ストーリーの結末近く、いわゆる”謎解きパート”になって初めて「実は、この容疑者は超能力者であり、100km離れた場所に瞬間移動できるのだ」と明かされたとしたら、読者は「そんな卑怯な!」と感じるはずです。
これがいわゆる”アンフェア”の極端な例です。
ここまで極端でなくても、謎を解く上で不可欠な情報を作者が伏線として読者・観客に提示することを一切せず、謎解きパートまで完全に伏せていると、読者が「アンフェアだ」と感じることに繋がります。
例えば、ミステリー小説の地の文に嘘の記述が含まれていると、「地の文に書かれていることは真実」という暗黙のルールが破られているので、「アンフェアだ!」と感じる読者が多いでしょう。
これと同様に、「ミステリージャンルの映像作品において、犯人の作り話を映像にして観客に見せ、且つ、そのシーンが作り話だと観客に明かさない(=現実に起きたことだと観客に思い込ませる)のはアンフェアだ、とする声もあります。
ですが、有名な”どんでん返しモノ”の映画で、「ほぼ全編が真犯人の作り話で構成されている」というものも存在し、「絶対にNG」ということではありません。
あえて私がこの補足をしているのは、質問者さんがミステリーにおける”アンフェア”という概念を理解されているのかどうか、理解した上で「登場人物の作り話を映像にする」という判断をされているのかどうかが分からないからです。
作り手が「諸々を承知の上で選択している場合」と、「そもそもアンフェアという概念を理解していない」という場合では、自ずと作品の出来映えに差が生まれるかと思いますので、ご参考までに。
これからもお互いがんばりましょう!
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