『孤独な荷物の謎』
「お届け物です」
私はアパートの玄関へ出ると、そこには誰もいなかった。外を眺めても去っていく人影すらない。空耳か? よく見ると足元に荷物らしき段ボールが置かれている。送り状はない。黒いマジックで『7』と殴り書きがしてあった。7とは何だろう? そんなことを哲学する日が来るとは思わなかった。7が孤独な数字だというのは、森博嗣先生の『すべてがFになる』で得た知識だ。その孤独な番号が割り振られた段ボールの中身は何だろうか。
アパートで独り暮らし。バイトでどうにか食いつないでいる孤独な男のもとに届いた、孤独な段ボール。開けてもいいものだろうか? 他人への荷物ではないよな? それとも嫌がらせとか。まさか爆弾──っていうのは漫画の読み過ぎかもしれない。耳を近づけても、音はしない。持ってみると少し重い。空っぽではないようだ。
段ボールはガムテープで奇麗に封をされていた。だが、横の部分に小さな穴が開いている。覗こうとしても覗けない程度の、小さい空気穴のようなものだ。その穴に耳を当ててみる。まさか中に生き物が入っているわけではないだろう。段ボールで生き物を送る人がいたらそいつは常軌を逸している。
がさこそ。
何かが動く音がした。本当に生き物なのか? 背筋が凍る。顔が青くなるのが自分でもわかる。これは開けてみるしかない。もし生き物が入っていたら助けなければならないだろう。
そうしてテープを剥がそうとした時だった。
「ぼく、アライグマだよ? ねえ、聞いてる?」
段ボールの中から声が聞こえた。人間の声だ。しかし、自分のことをアライグマだと言っている。まるでわけがわからない。送り主じゃなく、荷物の方が常軌を逸していた。アライグマがしゃべれるなら、スターリングもラスカルも苦労はしていないだろう。
「ラスカルで有名なアライグマだよ? かわいいよ?」
私は自分からかわいいと言う人間が嫌いだ。ましてや、アライグマだぞ?
「ヘイ、マイケル!聞いてくれよ!アライグマがしゃべったんだ」
「なんだって!ジョージ。アライグマがしゃべっただって? HAHAHA!そんなことあるわけないだろう?」
ジョークのネタになって終わりの話だ。しかもジョークにしてはシュールすぎる。ここからどういうオチに持って行けばいいのか悩むだろう。
「アライグマだから洗うのが得意だよ。手も洗うから清潔さ。エサだって洗って食べるしさ。お願いされれば、人も洗うよ。刑事みたいにね」
洗いたいのはお前の正体だぞと言いたくなる気持ちをこらえて、無言で段ボールをその場に置いた。これは開けてはいけない箱だ。シュレーディンガーのアライグマ。まあ、しゃべっているからこいつは生きているんだろうが、この生物が本当にアライグマかどうかはわからない。ヤバい新生物なのかもしれない。なんでこんなものが部屋の前に。
私はヤマトに電話をし、他人の配達物が届いたから回収してほしいと依頼をした。すると、ヤマトの人間はこう言った。
「クロネコじゃアライグマに勝てないんで、よそでやってもらえます?」
野生へ帰そう。私は森へ向かう準備を始めた。
小説お題ジェネレーターで出たお題。
『数字』『アライグマ』『お届け物』を使って小説を書いてみました。書き始めて30分くらいで完成。ホラーになりそうなところを、コメディ寄りにしつつ着地みたいな話になりました。結局、箱の中身は何だったんでしょうねえ。