「佐藤亜美 二十五絃箏リサイタル」
2日前はオール長澤勝俊作品でしたが、今回はオール伊福部昭作品です。
長澤作品が「湿った日本の風土」だとしたら、この度の伊福部作品は「乾いた西アジアの風」。
演奏スタイルも、大合奏とは対照的に、お一人だけでの演奏です。
一音一音丁寧に紡ぎ出される音を聴いているうちに、いつの間にか伊福部ワールドに引きずり込まれていました。
プログラムは3曲ながら、いずれも大曲ばかり。
「胡哦(こが)」
「胡人のうた」という意味で、敦煌からカシュガル辺りに住んでいた西アジア系の民族をイメージしているよう、とのこと。
優しく歌うように始まるオープニングから、一音一音の美しさに、涙がこぼれそうになりました。
身にも心にも染みついた穢れが払われるようです。
交互に繰り返されるアダージョとアレグロは、砂漠の乾いた風が、客席の中を時に緩やかに、時に激しく吹いているかのようでした。
「箜篌歌(くごか)」
「箜篌」というのは、古代アッシリアを起源に持つと考えられているハープ族の楽器です。現存する物はなく、正倉院御物に2張分の残闕が残されているだけです。
ギター曲として作曲されたこの曲を、二十五絃箏での独奏として初演されたのが野坂操寿さん。
その際はキーを上げて演奏されたとのことですが、今回は原曲の音域のまま、低音二十五絃箏で演奏されました。
二十五絃箏のきらびやかなハープのような音色に対して、低音二十五絃箏は、柔らかみと深い響きが特徴的です。
ギター曲らしい軽やかなアルペジオもこの楽器で奏でると、聴いている者を暖かく包み込んでくれるようです。
滅びてしまった箜篌の音色は想像するしかないのですが、もしかしたらこんな柔らかな音で当時の人々を楽しませていたのかもしれません。
「琵琶行(びわこう)」
白居易の長詩「琵琶行」をもとに作曲されました。
曲を聴いていると言うより、ドラマを見ているかのようです。
大きな川に何艘もの船が浮かんでいます。
岸辺にはきらびやかな商店が並び、行きする人々が賑やかに楽しげに通り過ぎていきます。
左遷地を訪れてくれた友を見送りに来た白居易。
友を見送るさみしさの中、琵琶の音が聞こえてきます。
美しいその音色。
聞けば、かつては都で美伎といわれた琵琶の名手でありながら、落ちぶれて、今はここにいるとのこと。
もの悲しい切々たる音色が身に沁みます。
まるで琵琶が泣いているかのようなその音を、二十五絃箏が歌い上げます。
川面に秋の月が映って揺らめいています。
*「琵琶行」の詩の内容は「中国語スクリプト」さんをご参照ください。
この曲は、多くの二十五絃箏者さんが演奏されています。
この後も
10月7日は佐藤康子さん
11月23日は木村麻耶さん
12月14日は山本亜美さん
が演奏されます。それぞれの「琵琶行」を聴いてみたいものです。
*1曲目の「胡哦」は10月30日の池上亜佐佳さんと山本亜美のデュオリサイタルで演奏されます。
たったお一人で、これほどまで贅沢なひととき。
ありがとうございます。
今日もまた、幸せな気分で家路につきました。
*箏の波では、演奏会情報をご案内しております。是非、生の演奏を聴いてみてください。
https://gainful-butter-9171.glideapp.io/
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会場 古賀政男音楽博物館けやきホール
日時 2023年9月18日(月・祝) 14:00
二十五絃箏:佐藤亜美
1. 二十五絃箏曲 胡哦(1997) 伊福部昭作曲
2. 箜篌歌(1969/2023)低音二十五絃箏独奏・初演 伊福部昭作曲
3. 二十五絃箏曲 琵琶行-白居易ノ興ニ倣フ-(1999) 伊福部昭作曲