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恩田陸「球形の季節」

噂ってこわい 読後の第一印象はその一言につきる

元はある少年の思いつきなんだけど 噂や言葉が広がるうちに
何か得体の知れない力を持ち始める それが怖い

舞台は谷津という田舎町
作品中に出てくる「本当の谷津」とは何のたとえだろう
不幸な出来事で心に傷を負ったものや
ある種の感受性の強い子はそこに跳んでいくことができる 
そこは現実よりも心地いいらしい
そして
「8月31日みんなを迎えに来る」そんな噂を信じて
みんなは迎えの来るその場所へと向かう

今ここにいる自分は本当の自分じゃない
自分の力の生かせる場所で自由に生きたい
自分のことを理解して引っ張りあげてくれる人についていきたい

それがかなえられる場所としての象徴が「本当の谷津」

どっちが本当の場所か?

それがもし虚構でも その中で生きてる人には本物か偽物かなんて大した問題じゃない 
現実よりすばらしいなら虚構でもいいんだろう 
そういう人も現実にいっぱいいる
そう錯覚してしまうような少年少女時代の危うさをうまく描き出していると思う

本当に強いのは みのりのような人だと思う
地に足をつけて 自分を信じて 身近な人を大事にして 
これからの幸せを祈って生きていく
「自分は跳べる 跳びたい」そうみんながもがく中
彼女は真っ直ぐで幸せそうだ

宗教なんて未完成だし、矛盾だらけなのは承知してるわ。でも、ろくな答えのないこの世の中では、比較的きれいな答えの一つだと思うわ。
優しい人間、誰にでも親切な人間なんて信じない。自分がそうしたいと思うものにだけ、無償の愛情を注げる者の方がよっぽど正しい。


(2008.03.24)

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