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今夜三条でコース料理を。ビストロヤナギハラの魅惑。【フードエッセイ】

ここは京都三条にある小さなビストロ料理店。
最後のデザート皿を平らげ、グラスに入った一滴のワインを飲み干した。
今の私は最高潮の嬉しみと美味しさに満ちている
コース料理ってこんなにも味わい深かったとは…

白い皿に美しく盛られた食材は時間が経つごとに色を変えて現れる。まるでシェフが私たちの反応を楽しんでいるように。繊細な腕を持つシェフが組み立てるお料理を味わえるんだから、それは完璧なマリアージュなのだ。お店に全ての身を委ねながら堪能する味わいは贅沢なもんで、私の誕生日はこの上ない幸せに満ちた思い出となった。

私ごとだがいい肉の日をもって誕生日を迎えた。

「ビストロ ヤナギハラ」
私の大好きな中華料理屋「鳳泉」の通りにあり、北側に歩いて徒歩10秒という感じだろうか。ウォルナットの木にシックなレンガの外壁の店構えは海外のクリスマスの家を思い浮かばせるような異国情緒がありとても惹かれる。
扉を開けると店の中から穏やかな佇まいの女性が「いらっしゃいませ」と出迎えてくれた。予約していたことを伝えると、一番奥の席へと案内してくれた。そして手慣れた手つきでコートを預かり最初のご案内をしてくれる。

本日のお料理は全てお任せのコース料理なので、優柔不断なメニュー選びもない。今日はコースに合わせるドリンクを選ぶだけだった。もちろん、今日のお目当てはワインだ。メニューを開くといくつかの銘柄のワインが書かれており、その下にはワインセットなんていう魅力的なものがあるから、今日は贅沢にそれを注文した。しばらくすると1杯目に軽やかなスパークリングが運ばれてきた。それと一緒にアミューズ的にオリーブのマリネが出てきた。私たちはしばらくスパークリングとマリネを楽しみながら、コース料理一緒に食べるのって4回目くらい?とか話していた。

アミューズのオリーブマリネ。スパークリングの爽やかさとあうのだ。

マリネを食べ終えた頃、お姉さんがとてもベストなタイミングを見計らって次のお皿を運んできてくれた。
これが見惚れるほどの美とおいしさな前菜なのよ…
なんと七谷鴨のフォアグラコンフィが目の前にやってきた。ふっくらピンクの艶めきを放つトキメキは止まらない…お姉さんに言われた通り、フォアグラの下に隠れているパテと一緒にナイフでスゥーーっと切って口へと運ぶ。その瞬間、脳内が溶けてゆくように全ての感覚が最高潮に満ちる幸せが舞い降りた。それはこんなにフォアグラって美味しいんだと感じた瞬間でもあった。フォアグラって高級なだけで別に…とか正直思っていたのだが、油断してはいけなかった。

七谷鴨のフォアグラは侮ってはいけなかった…

忘れてはいけないのは自家製パン。
前菜と同時に湯気をふかふかしなながらやってきた。
焼きたてあつあつで、美味しいパンをちぎる時のザグゥゥゥッていう音がパンから響き渡る。噛めば噛むほどライ麦の酸味ある旨みがミチミチ攻めてくる感じでワインがスルスル進むのだ。

ライ麦のギュンとした旨みよ〜

この時点で相方とはほとんど何も話すことなく無我夢中で食を堪能していた。平野紗季子氏が美味しいものを食卓にある時、相手とは老夫婦のような関係になるのだと言っていたのは本当だったのだと確信する。
あたりを見渡すと、いつの間にか他のお客さんが来店していて席は全て埋まっていた。どこかの社長さんだったりシュッとしているおじさんとその奥様たちがしとやかに嗜まれているのを見て私もこんな素敵な雰囲気を出せる人になりたいわとか思いながらお皿はあっという間に真っ白だった。

それに負けじとお姉さんがテンポよくお料理を運んできてくれる。空いたワイングラスもすかさず確認して次のワインをもってきてくれた。次のワインん何がいいですかって聞かれたから「少し最後の後味が甘い感じので」と言ったら、嬉しいことにアルザスワインをもってきてくれたのだ。
マルク・テンペ狂の私にとってアルザスワインはとても嬉しく、これは最高のセレクトだと飲む前から幸せだった。間違いなく口にすると少しとろみのある舌触りと辛口なのだけど後からハチミツみたいな甘さがくる感じがたまらん。(マルク・テンペは引退されてしまった…)

アルザスのリースリング。辛口なのにはちみつとろけるような甘味が後からジュワ〜っと。
これだけでもいけます。

そしてそれに合わせるのは燻製サーモンのソテー。サーモンのソテーでなく「燻製」というのがついているのよ。燻製という言葉がつくことでよりおいしさが引き立つのは何故だろうか。口に入れると燻製の香ばしい香りととろけるサーモンの脂のマリアージュがすんごい…添えてある野菜たちは全てが均一な火の通りと絶妙な温度加減でシェフのマジックよ。シンプルながらも全てが引き立つ存在でなんだこれはって感じの濃密なうまさだった。

燻製サーモンソテーのサラダ仕立ての濃密なうまさが絶品。

次はメインの肉料理かと思えばまたまた魚料理がきた。予想していなかった展開なのでサプライズ的な嬉しさを感じる。お姉さんが「パンのおかわりいかがですか」と聞いてくれて、フランスの田舎の美味しいお店に来て堪能しているみたいなほっこり感だった。

さわらのムニエル。ほんのりスパイシーで温かな風味がほっこり。

あっという間に最後のメイン。艶やかなブラウンソースに纏う北海道蝦夷鹿のロティよ。美しい漆のような赤色で全ての面積を占めている肉は初めて見たんだ…。そして人生初の蝦夷鹿を堪能する時もやってきたのだ。ナイフとフォークで一口大に切ると、思った以上な柔らかさなんだからびっくり。口に入れてみると肉の旨みが噛めば噛むほどギュンギュン出てくる…そして添えてあるブルーチーズマッシュポテト独特の旨いクセが鹿肉に負けない良い役割を果たしているのだ。これには赤ワインがピッタリで、ちょっと深い赤ワインで嗜んでいる。相方はというと、あまりの美味しさにもう眠たいようだ。美味しい料理とワインを飲むといつも眠たくなるんだから、お店に来るのは良いけどほとんど喋らなくなる。まあそれもどっぷり料理を堪能できるからいいよねと思いながら最後の一滴までソースをさらえた。

北海道蝦夷鹿のロティ。ブルーチーズのじゃがいもを添えるのはズルすぎるうまさ。

たらふく食べた幸せに浸りそろそろ帰る時間かと思っていたら、ろうそくをたてたデザートがやってきた。なんだこの可愛いプレートは。白いプレートの真正面に小さなろうそくがゆらゆらと灯っている。周りには「Happy Birthday Kotone」の文字。グラタン皿にちょこんと佇んでいるココナッツのムースに柑橘のシャーベット。お腹いっぱいに満たされた胃でもつるっと食べられるサイズと嬉しいサプライズに感激です。

ビストロヤナギハラはアルザスで修行されたシェフが営まれている料理店だと後から知った。一乗寺のalsaceといい京都はフランス料理も侮れないからすごい。アルザス好きの私にとって今年の誕生日はとても幸せな心地に浸れた日々となった。
そして、コース料理の完璧なるデザインされたおいしさを味わった私はまた一つ大人になれたようだった。

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