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自分の管理もままならないのに、管理職。3

なんだか体が傾いてる気がする。と思ったのが、先月の中頃のこと。
これはもしや目眩なのかもしれない。と、ようやくその可能性を思い立ったのが月末。
かかりつけの耳鼻科に予約をとって検査してもらった結果「これはしっかり目眩ですね」と診察が下されてしまった。やっぱりそうなのか。

最初は耳から不調の可能性を指摘され、薬が処方された。
薬剤師から「ここの薬剤師が満場一致でナンバーワン不味い薬なので!頑張ってください!」と半ば脅しのような励ましを受けて渡された薬は、錠剤 3種類・粉薬1種類・そして不味い液体が1種類。
この液体が信じられないほどの重量。これまで風邪用のシロップくらいしか液体薬の経験がない。
細長い長方形状の袋に詰まる液体。それを1日3回、1週間分となれば「ずしっ」という重たさもあるだろう。
夫に持たせてみたら、驚きのあまり息子にも「これ持ってみ?」と持たせていた。息子も「おもっ」と漏らした。

「なんて言うんですかね…苦い、とかじゃないんですよね。苦いだけならまだマシなんですけど、無味ってことでもなくて…とにかく飲みづらいって評判なんです。今日、同じ薬を処方されてる方が受け取りに来られたんですけど“腹が立ってくるほど不味い!“っておっしゃてたんですよねぇ」
そんなに!?と私は調剤の窓口で叫んだ。私の叫びで何人かがこちらを振り向いた程度には大きい声が出た。
初めての経験を前に、ひたすら嫌な説明をされた私はその夜お酒を飲んで寝てしまった。ああ現実逃避。

しかしいつまでも逃げているわけにいかないので、翌朝意を決して立ち向かうことに。
袋の上部を切り取って、切れ込みを口に含んで、一気に上を向いて飲み干す。
再三に脅されたせいか、一瞬「あれ、言うほどでもなくない?」という感想。
確かに美味しくはない。なんというか、うがい薬と腐ったブドウを混ぜたような独特の味。夫に「腐ったブドウ食べたことあるんか」と突っ込まれたけれど、それしか表現の仕様がないんだよ。
しかし、この薬が真価を発揮するのはここからだった。
ひたすらに「後味が長持ち」なのだ。
大体どんな苦い薬だって、その後お水を飲んだりなにかを口にしたりすれば数分で後味は失われていく。
この薬は、どんなに水で流し込んでも 30分くらい喉のあたりに薬の味が張り付き続ける。
多分、腹が立ってくると述べた人も、これが嫌なんだろうよ。きっとそう。絶対にそう。だって、いつまでも口の奥から喉のあたりが腐りブドウうがい薬なのだから。世の中にこんな薬があるのか。驚異的に粘りが強い。世界はまだまだ知らないことだらけ。

会社でも家でも外出先でも、我慢して渋い顔して薬を飲み続けること1週間。
再度検査を受けた私に先生は言いました。
「ちっとも良くなってないねえ」
そんな馬鹿な。あんなに不味い苦しい思いをしたのに、一向に回復していないとは。
しかし私も薄々感づいていた。目眩はさっぱり良くなっていない。薬を飲めばそれなりに動けるけれど、飲み忘れて 6~7時間経過すると一気に頭が重たくなってぐらぐらしてくる。耳鳴りも強くなってきているし、これ本当に治る気ある? と疑っていた。

他の症状も諸々先生にお伝えし、出た結論は「耳が原因じゃなくて、自律神経からでしょう」だった。
出た。自律神経。
10年ほど前に胃腸を壊した時、消化器内科の先生にも言われた。自律神経からきてますね。
ストレスをなるべく減らしてください。よく寝て、よく水分をとって、心穏やかに生きるのが最善の方法です。
自律神経と言われると、一気に治る気が減ってしまう。

ストレスの原因なんてわかり切っていて、そんなものは仕事以外にない。
この前残業続きでようやく完遂した部下の評価査定も、慣れない順位付けで精神が疲弊した。
それ以外にも日々面白いくらい新たな仕事が舞い込む。●●の推進担当者に推薦しといたから。■■のミーティングあるから出席してね。この資料、明日までに作ってほしいからよろしく。
だけどそんなことはわかってる。見たことも聞いたこともない仕事が降ってくるのも、新米管理職だから色々やらされることも、それは起きて当然だし仕事なんだから仕方ない。
頭ではそう理解して受け止めているのに、身体や心が拒否してるってことなんだろうか。

ストレスを減らすって、どこから減らしたらいいんだろう。
美味しいものも食べているし、夜はそこそこきちんと寝ている。休みが取れないわけでもない。
私より忙しく働いている人は、この世にごまんといるはずなのだ。
だけど他人と比較しても解決しないことも、わかっている。
自分がやりたいことがやり切れていないストレス。なのかもしれない。
読書がしたい、カメラをもう一度始めたい、もっと文章が書きたい、ZINE 作りをきちんと進めたい。
美術館やギャラリーにもっと行きたい、ブックカフェも行きたい、家族とお出かけがしたい。
目眩のせいで休日はまた横になる時間が増えている。これじゃ鬱の時と変わらない。思うように動けないことがストレスに繋がっている、可能性は大いにあり。ありよりの、あり。

そうこうしてるうちに、もう3月が近い。
うちの会社には最大の繁忙期がやってくる。
休日はきっと、今以上にベッドの上でへたってしまうだろう。
心なしか職場でもみんなピリピリした空気を放っている。不意に耳にする会話で、そんな言い方しなくてもいいのに、と内心はらはらすることが増えてきた。ゆとりが減ってるのだ、きっと。私だけじゃない。
どうせ働くなら心地よく働きたいし、自分だけじゃなくてみんなが思い悩まず会社に来れるといいな、と常日頃思っている。管理職だからとか、良い人ぶっているわけじゃなく、昔からこういう性分なのだ。全員の願いが同時に叶う世の中じゃないけれど、せめて自分の目の届く範囲の人たちがなるべく辛い思いをしないでほしいと思ってしまう。
悲しい顔の人がいたら抱きしめたいし、怒ってる人がいたら話を聞いて和らげたい。
気遣いすぎ、とたまに言われる。
それも原因かもな、とほんのり感じている。
それでも性格はなかなか変えられない。もう四十も半ばなんだし。
このままの自分でうまくいく方法ないかな、と思いながら、今日もきびきび働いている。時々目眩に負けて、ふらつきながら歩いている。

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