万葉集翻案詩:『まっさらな夏の訪れ』
春過ぎて 夏来るらし 白栲の 衣干したり 天の香具山
(「万葉集」巻①・28 持統天皇)
『まっさらな夏の訪れ』
いつの間にか
やわらかな春が
胸元を通り過ぎ
霞の帯を巻き取ってゆく
気が付けば
大いなる空は一点の曇りもなく
澄みきって
辺りの山々は新緑を湛え
そして、滴らせている
宮殿から見える香具山に
乙女たちが祭りでまとった
白い衣が干してある…
風に揺れる その様は
ゆるやかにたゆたう雲のようで
孤独に苛(さいな)まれる私の心を
優しく包みこんでくれる
ここまでいろいろあったけど
都の辺りにも
私の心にも
まっさらな夏が来たらしい
【メモ】
この歌、新古今和歌集や小倉百人一首では
春過ぎて
夏来にけらし
白栲の
衣ほすてふ
天(あま)の香具山
となっています。
もしかすると、こちらの方が耳なじみがある方のほうが多いかもしれませんね。