万葉集翻案詩:『朧の庭』
春の苑 紅にほふ 桃の花 下照る道に 出で立つ娘子
(『万葉集』巻⑲・4139 大伴家持)
『朧の庭』
朧(おぼろ)にくるまれた夕陽が
春の庭を
薄紅色に染め抜く
あでやかな桃の花が
咲き誇り
一筋の道に映り込んで
照り輝いている
そこに、ふと現れて
静かにたたずむ乙女
その美しさは
この庭に住む桃の精霊か…
それとも
私の心に住む憧れの人か…
薄紅色の景色の中で
私は
境界線が引き抜かれた
夢とうつつの境目を
行ったり来たり
淡く甘い色をした
朧の庭で
過去の恋の余韻に浸る
【メモ】
大伴家持が越中国守(今の富山県知事)として、今の富山県高岡市に赴任した時に庭の桃の花を詠んだ歌です。
巻⑲の冒頭を飾る歌で、彩りが美しい歌です。
歌の中の「娘子」のモデルは実際のところ誰か定かではありませんが、妻であり、この時、奈良の都から越中に来ていた妻の坂上大嬢(さかのうえのおおいらつめ)がモデルだったのではないかという説もあります。
そして、「鳥毛立女屏風」の女性の世界を歌にしたという説もあります。