「言えない想いが揺れる夕暮れ」
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放課後の教室は、夕日に染まって静まりかえっていた。 陽菜（ひな）は机に頬杖をつきながら、窓の外に見える校庭をぼんやりと眺めていた。 グラウンドの隅ではサッカー部の翔太（しょうた） ）が仲間と笑い合っている。その姿を見るだけで、胸の中がじんわりと続く。
それでも、その気持ちを口に出したことは一度もなかった。
クラスの友達が集まって話す内容は、いつも恋愛のことばかりだ。ながら話していた。
本当は自分も話したかった。自分の心の中に咲いている、小さな恋の花のことを。だけど、「好きな人いるの？」と聞こえるたびに、「いないよ」と嘘をついてしまう。
理由はわからない。 ただ、自分の気持ちを話したら、笑われるんじゃないか。
「何見てるの？」
突然の声に驚いて振り向くと、友達の美咲（みさき）が立っていた。彼女は陽菜の後ろの席に座っていて、いつも明るくて、みんなの中心にいるような子だ。
「いや、別に……」
陽菜はぼんやりしてそらした。美咲は陽菜の迷いが先にあった先に気づき、にやると笑った。
「もしかして、あのサッカー部の翔太くん？」
陽菜の顔が一気に熱くなった。何も分からないままぷくと、美咲はいたずらっぽい表情を黙って言った。
「別に仕方が無いのに。好きな人がいるって、すごく素敵なことだよ。」
その言葉が、陽菜の心に小さな波紋を広げた。 美咲の声には、からかいでも、茶化してもすぐに、ただ優しさだけが込められていた。
「……でも、笑われるのが怖くて。」
思い立って、陽菜はぽつりと呟いた。 すると、美咲は少し驚いて見つめてから、首を振った。
「笑えないじゃん。それで、話すことでスッキリすることもあるんですか？」
陽菜はしばらく黙っていたままだった。でも、心の中の小さな花が、ほんの少しだけ強く咲いたような気がした。
その日の帰り道、陽菜はふと気づいて空を考えた。 オレンジ色の空に、雲がゆっくりと流れていく。 美咲の言葉を思い出しながら、そっとスマホを取り出した。
「美咲に話してみてもいいかもしれない。」
そう思うと、少しだけ歩幅が軽くなった気がした。 いつか、この小さな恋を声に出して話せる日が来るのだろうか。 その答えはまだ少しだけ、心の中にあった迷いが少しだけ薄れていくのを、陽菜は感じていた。
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