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デビューは認知症対応型デイサービスだった

ぼくが介護職員としてはじめて経験した現場は、認知症対応型デイサービスだった。

認知症対応型デイサービスは、通常のデイサービスとは少し違っていて、1日の利用者さん人数が12名以下と決められている。
もちろん認知症と診断された方しかいない。通所型のグループホームといったところだろうか。ぼくはグループホームで働いたことはないが。

特徴としては通常のデイサービスよりも手厚い介護が受けられる・個別対応可能な環境というわけだ。なので重度の方が多い。

どんな方がいたかというと、

1時間に5回トイレに行く方。
ずっと「ポン!ポーン!」とニコニコで独り言を言っている方。
「私は〇〇です。よろしくお願いします。」と終日自己紹介をしている方。
「なんだこのやろう!ぶっ殺すぞ!」と鏡に映った自分に怒鳴る男性。
「ひやぁ〜!ひやぁ〜!」と言いながら手足を振るわせながら車椅子に乗っている老婆。
「私はもう死にたいの」とずっと泣いて感情失禁が止まらない方がいたり。

それぞれに転倒リスクがあったり、徘徊・失禁・失便がある。

そんな方々が一堂に介していた。アベンジャーズだ。
そんな方々と朝から夕方までずっと一緒にいるわけだ。

ひとりひとりの対応でも大変なのに複数の方が同時に動く。そりゃ当たり前だ。ただ、ほぼ全員、見守りが必要な方なので、あっちこっち振り回されて、自分が今、何をやっている時間なのかわからなくなってくることがちょいちょいあった。
小学校のときの運動テストでやった反復横跳びみたいな感じ。
「いったん座りましょうか」「お手洗いきましょう」「手を洗いましょう!」「どうしたんですかぁ〜」もう、マルチタスクもマルチタスク。

グループホームで働いている職員の方は、ほんとうにすごいと思う。ぼくはデイサービスがいい。

介護の仕事をし始めたときは、認知症の方々に正直面食らっていたし切ない気持ちにもなったし、脳の不思議というか人体の不思議を感じていたのだけど、

人間って不思議なもので、慣れてくる。

「なんだこのやろう!ぶっ殺すぞ!」と言われてびびっていたぼくも、次第に「殺さんといて〜!」って太極拳のように受け流すようになり、

「私はもう死にたいの」と泣いている老婆には、横に座って背中をさすり「寂しいからそんなこと、いわないでぇ〜いわないでぇ〜」と、舘ひろしのような甘いマスクかは知らないが、泣かないように心を落ち着かせる術を身につけていた。

無感情ではないものの、大きく感情が揺さぶられることもなくなっていた。

決して慣れて感情が死んでいったのではなく、認知症に対する知識や理解を含めた対応力を身につけたのだと思っている。

結局その職場は離れることになったのだが、大好きな利用者さんはいたし、その利用者さんと離れるときは失恋したような、相方と漫才コンビを解散したような切なさを感じた。

先日、その職場に行く機会があってその方のその後を聞いたら、もうすでに亡くなっていた。元気にフロア内を徘徊していたのに、一年後にはもう旅立っていた。

その方は今でもぼくの思い出とスマホの中に生きている。

一日中「ポン!ポーン!」ニコニコで言いながらフロアを徘徊している老人だった。
言葉になっていない言葉を言っていたけれど、ずっとニコニコして上機嫌で笑っていて、笑っている顔はものすごく優しい顔をしていて。
福耳のバーコードで、ポロシャツとスラックスがよく似合う紳士だった。

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