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相手の真実を否定しない

ここは地域密着型の小規模なデイサービス。
ぼくは介護職員。

利用者さんがひとり、廊下をウロウロしている。
手には、色をつけ終えた塗り絵の紙を挟むピンク色のファイルを手にしている。いく先はキッチンへ向かっているようだ。

背後から別の介護職員が追いかけてきた。「どこいくの〜」と声をかけている。正面にはぼくがいて、道をふさぐ形になってしまった。利用者さんは前後、スタッフに挟まれてしまった。

大捕物をしているわけではない。ぼくはその人が何をしにキッチンに向かっているか瞬時に理解した。無論、キッチンに塗り絵のファイルは必要ない。

「〇〇さん、どうしたんですか?」と、正面にいるぼくは声をかける。

「これな、わたしのだからな、カバンしまっておこうと思ってな。」子供が親の問いかけに答えるようなセンテンスで、ファイルをぼくに突き出すようにして見せてきた。

後ろの職員が「向こうの部屋にもどろ〜」と、来た道を案内する。が、利用者さんは見向きもしない。

こういうスイッチが入った時は無理に行動を変えさせることは難しい。今まで普通に椅子に座って塗り絵をしていたのに、何がキッカケで「持って帰らなくては」と思うのか、どれだけ分析しても答えはわからない。

利用者さんはキッチンを抜けた先の玄関近くにあるカバン置き場へ行って、塗り絵を自分のカバンにしまいたい。忘れないうちにしまっておきたい。ただそれだけなのだ。

ぼくも介護職をはじめた頃はなんとかして連れ戻そうと、あれやこれやと声掛けを工夫したものだった。押し問答みたいになったこともある。

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