おじさんとの旅行 iiii
前回はこちら。
ぼくたち家族3人が探し当てた家は、廃墟と化して生活感が跡形もなくなったボロボロの借家だった。
長年放置されていて、家としての形はかろうじて保っているような家。木造の家。玄関はねじまきのような鍵になっていて、入ると縁の下が丸見えで土が見えた。畳はささくれ立ち、大黒柱は黒ずんで今にも折れそう。天井ではネズミが運動会をしている。隙間風がビュンビュン入るガラス戸。ぼっとん便所。風呂は外にあり薪で火をつけてお湯を温める。
もう、誰も借りることはないだろうと、取り壊して駐車場になる寸前で、ぼくたち家族が手を挙げた。たしか家賃は1万5千円だったと思う。
なにも、ぼくらが移り住んだ土地が田舎だったわけじゃない。
まわりの家は、水洗・給湯器付き、鉄筋コンクリート2階立ての家が立ち並ぶ普通の住宅街。けれどそのボロ借家は、ぼくたちの入居を待ってくれていたのだ。
母子家庭の貧乏家族。
一般的にみたらそう言っていいと思う。
でも、あの悲しいアパートに比べれば、
隙間風が入ろうが、地面から冷気が襲ってこようが、
暖かさを感じる家だった。
小学校2年生から20才になって家を飛び出すまで、
この家がぼくの故郷になった。
そして、この家で暮らし始めてからもまた、
少し悲しい時期を過ごすことになる。
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