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3行小説まとめ⑦

第301回

サヨナラと言ったのは、私から。背を向けたのは、あなたが先。
別れの言葉すら、何ひとつ私には残してはくれなかった。
後ろ姿は見送らない。そして、私の中のあなたを全部、デリートした。


第302回

その日は雨が降っていた。なごりの雨だ、と思った。
惜しむのは、ゆく季節か、それとも、戻らない日々か。
降り続く雨の中、いつかあの人が差しかけた、傘の深い蒼を思い出す。


第303回

夜はまるで、彼女の心を蝕むように更けてゆく。
星あかりのひとつすらない都会の夜空は、
彼女のすべてを飲み込み、閉じ込め、闇に葬った。


第304回

とても現実的で残酷な光景を目にしながら、
「夢みたいだな」と曖昧につぶやく。
自分の頬が冷たく濡れていると気づき、泣いているのだと知った。


第305回

手に入れたものは、周囲から称賛されるほど大きなもの。
引き換えに失ったのは、とても小さなささやかなもの。
けれど、本当に大切だったのは…。今さら気づいても遅い。


第306回

「何もわかってない!」と、キミはプイッと横を向く。
そんな姿も可愛いなと思うボクは、呆れるほどキミが好きだ。
そうとは気づかれないようクールな顔を取り繕う…けど、バレてる?


第307回

無邪気にはしゃぐキミを見る。昨日と何も変わっていない。
昔からずっと変わっていない。けれど、僕の気持ちは…。
無邪気に笑うキミが僕を見る。何もかもが変わってしまった。


第308回

その瞬間、すべての音が消え、時間が止まった…気がした。
この世界にふたりだけ。けれど、すぐにあなたは消えてしまう。
置き去りにされた私は、瞬きさえ億劫になって目を閉じた。


第309回

キミに告げたいのは、サヨナラでも、アリガトウでもなくて
言葉が見つからず、ボクは黙ってしまう。キミも黙っている。
この手からこぼれ落ちていくものを、ボクたちは見送るしかなかった。


第310回

とても静かな夜だった。この世界に存在しているのは自分だけ?
そんなバカげたことを考えてしまうほどに、周囲には闇しかない。
思わず見上げた空に、小さな光がポツン。励ますように瞬いた。


第311回

夢を見た。暗闇のずっと向こうにかすかに灯りが見える。
それを目指してひたすら歩く。けれど、距離は縮まらない。
急ぐ。焦る。手を伸ばしても届かない。そして、目覚めた。僕は…。


第312回

ふと、街中で耳をかすめたメロディが私に懐かしい風景を見せる。
あぁ、そうか。これはあなたが大好きだった曲だ。
思い出したのはほんの一瞬のこと。彼女は立ち止まらず、歩き出した。


第313回

正しい道なんて、きっとだれも知らない。
だって、後から振り返ってそれが正解だったとわかるから。
恐る恐る踏み出したこの一歩は、正しい未来を切り拓くだろうか。


第314回

「心に嘘はつけないから」と、小さな声でキミは言った。
その瞬間から、ふたりで過ごした時間も、僕の存在も、
すべてが嘘になった。真実なんて、もうどこにもなくなった。


第315回

間違っていたのは、彼なのか、彼女なのか。それとも両方か。
そもそも正解は何だったのか。今のふたりにはわからない。
もう一緒にいられない。今はもう、それが唯一の選択肢なのだ。


第316回

寝坊をした週末の朝。ほのかに漂ってくるバターのいい香り。
あぁ、キミが鼻歌交じりにオムレツを作っているんだな。
とうれしさがこみ上げた瞬間、目が覚めた。そうか…夢か。


第317回

もうずっと雨が降らない。空気も大地もカラカラに乾いている。
ひび割れた道を歩く私はどこを、何を目指しているのだろう。
干からびた心を抱えて、もう隣にはいない人を想いながら。


第318回

ときどき目が合う。それだけのことで、なんだかソワソワする。
浮足立つ心の正体が知りたくて、つい視線で追いかけてしまう。
彼女の中の恋のつぼみは、花開く日を待っている。


第319回

何もかもが面倒になって、すべてを投げ出したくなったとき
寄り添ってくれたのはキミだったね。静かに、さり気なく、いつまでも。
男は思い返していた。失くしてしまったかけがえのないぬくもりのことを。


第320回

キミは物語みたいな恋に憧れていて、ふわふわと夢見がちで、
いつだって僕に、理想の男を望んだね。応えられなかったけど。
でもさ、そろそろ許してよ。不器用でカッコ悪い僕の愛し方でも。


第321回

ずっと怖かった。周囲の視線が。何もできない自分を見透かされているようで。
ずっと願ってた。愛されることを。たったひとりでいい。味方がほしかった。
あぁ、こんなに簡単なことだったのか。自分を信じればよかったんだ。


第322回

昨日まであたりまえだったことが、今日は特別になった。
彼は、できないことを嘆くより、今できることを黙々とこなす。
今日のあたりまえが、明日も続いていく保証はないと知っているから。


第323回

「好きなタイプ? 何でそんなこと聞きたいの?」
「だって今度はお前の番だろ?」とあなたは笑う。
本当のことは教えない。「あなたのことだよ」なんて絶対言わない。


第324回

「あぁ、これは夢だ」とすぐにわかった。だって
キミが笑っている。本当にうれしそうに、楽しそうに。
僕が一番見たかった、でも絶対に見ることが叶わない笑顔があった。


第325回

同じものを見て「キレイだね」とか「楽しいね」とか。
一緒に笑い合えたのは、そんなに昔のことじゃないのに。
もう、あなたの笑顔が思い出せない。どうしてかな。


第326回

朝起きて、キミがいなくて。残酷な現実を思い出す。
楽しかった日々は昔のこと。愛おしいその姿は夢の中のもの。
こんな朝なら来なければいい。ずっと夜のままでいいのに。


第327回

見たことのない光景に、男は唖然と立ち尽くした。
ここは夢の中? それともこれが、現実なのか…?
答えをくれる人はいない。男の隣にはもう、誰もいないのだから。


第328回

いくつになっても、何度目でも、恋の達人にはなれない。
初めて名前を呼ぶとき、初めて手をつなぐとき、初めて…。
いつだってこの胸は、うるさいくらいに高鳴ってしまうのだ。 


第329回

風が吹いて、雪が舞って、陽に照らされてキラキラと降り注ぐ。
いつか見た美しい風景も今はなく、私の瞳に映るのは死に絶えた街。
夢か、現か。どちらでもいい。あなたがいないなら、どうでもいいこと。


第330回

夜になっても雨は止まず、街を濡らし続けている。
窓からそれを眺め、彼女は思う。「いつかは晴れる、のかな」
朝の来ない夜はない。止まない雨はない。ならば、砕けた心は?


第331回

「コーヒーの香りが苦手だ」とあの人はいつも眉をしかめた。
キライなものに辛辣で、嫌なことは一切しない。そんな人。
でも、大好きなものはいつもそばに置きたがった。そんな人だった。


第332回

朝、目が覚めてすぐに「何かがちがう」と彼女は感じた。
小さな棘が刺さったような些細な違和感が拭えない。
そして彼女は思うのだ。「私は、誰なんだろう?」と。


第333回

誰もが彼女を好きになる。その笑顔、魅力的だもの。
一番近くにいられることにちょっと優越感を覚えていた。
でも、彼らのライバルにすらなれない。だって僕は…。


第334回

ヒリヒリと心が痛むのは、きっと乾いているせいだ。
水を注がなければバラが枯れてしまうように、
愛を伝えてくれないと、心は乾いて、恋は枯れてしまうんだよ。


第335回

「晴れたねー」ってキミがとてもうれしそうだから、
僕もうれしくなって、幸せな気持ちになって、笑顔になる。
「散歩でも行く?」と言えば、キミはますますうれしそうに笑った。


第336回

特別なことなんて望んでなかった。ただ、ただ、笑っていてほしいだけ。
高価なプレゼントも、バラの花束も、未来の約束もいらない。
今、ここにいて、隣で笑ってほしいだけなのに…。


第337回

本当の気持ちが知りたい。でも、知りたくない。
うらはらな想いの間で揺れている彼女は気づかない。
同じ葛藤を繰り返す男が、すぐ目の前にいることなど。


第338回

じっと目を凝らしてみる。ひとすじの光を探して。
けれど、彼女の瞳に希望は映らない。たとえすぐ目の前にあったとしても。
すべてを拒絶しているのは彼女。絶望を望んでいるのも彼女自身なのだ。


第339回

毎日同じことの繰り返し。その事実に私は少し飽きていた。
だからと言って、この変化は歓迎しない。あなたを奪われてしまうなんて。
青い鳥は飛び去り、私は忘れていた童話を思い出している。


第340回

鐘がなる。幸せなふたりを祝福する鐘がなる。
それをひとり聴いている私は、きちんと笑えているだろうか。
あなたに贈った「おめでとう」は、風に舞い、消えていった。


第341回

泣きたくなんてないのに、涙はとまってくれない。
こぼれ落ちては足元を濡らし、やがて水たまりになった。
やがて川になって私を飲み込んで、溺れてしまえればいいのに。


第342回

人は見たいものばかりを見る。だから、気づかなかった。
いや、気づいていないふりをした。現実から目をそらして。
けれど、もう逃げ場はない。ほら、「サヨナラ」が降ってきた。


第343回

理屈じゃないのはわかってる…つもり。けれど考えてしまう。
キミの言葉の裏側を。僕に向ける笑顔の意味を。
頭でっかちな恋しかできない僕に、キミの無邪気は眩しすぎるんだ。


第344回

行き先も目的もなく、気まぐれに飛び乗った列車。
私をどこへ連れていこうとしているのか、わからない。
けれどそれでいい。自分の行き先を見失った今の私には。


第345回

控えめに小さく微笑むキミが好きだった。今さら気づいても遅いけれど。
あたたかい陽だまりのようなやさしさを失くし、
真冬の寒さに凍えてかじかんだ心を抱えた僕は、笑うことができなくなったよ。


第346回

甘い香りが私を誘う。「気持ち、伝えなくていいの?」
惑わされないよう早足になるけれど、ここにもそこにも甘い誘惑が。
小さく息を吐き、覚悟を決め、リボンのかかった箱をそっと手に取った。


第347回

何を期待してるの? 朝からずっとソワソワして。
もの言いたげにチラチラと視線をよこして…もぉ、うっとおしい。
しょうがないから、コレあげる。受け取って…くれるよね?


第348回

本当は、チョコレートが苦手。だけど、キミが贈ってくれるなら話は別。
どんなに甘くても、笑顔で食べきる。「最高にオイシイ」って必ず言う。
だからさ、そのリボンの付いた小さな箱を、僕にくれないかなぁ…。


第349回

いつもなら「何かのついで」とか、「おすそ分け」とか言って、
無造作に渡せるのに、渡すことが意味を持ってしまうイベントが嫌いだ。
私はただ、チョコを頬張って幸せそうに笑う顔が見たいだけなのに。


第350回

いつもなら遠慮なくしゃべるキミが、めずらしく口ごもったりするから。
何か言いたげに、ちょっと意味深に視線をよこしたりするから。
すっかり勘違いしちゃったよ。あ~ぁ、ドキドキして損した!

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