『僕は悪者。』 15
一五 俺は複数の豚ゴミに囲まれて、生徒指導室にいた。ありとあらゆる教師が来ては俺を怒鳴りつけたり、睨んだりする。
だが、俺の心は校門から出て放課後の自由さにホッとした時のように落ち着いていた。
俺は確信していた。この俺を叱りつけている豚ゴミよりも俺の方が正しい。
俺の方が圧倒的に正しいことをしている。
俺は叱る豚ゴミの目を見つめ続けた。だが、豚ゴミは俺と目を合わせようとはしない。
言いたいことはたくさんあったが、俺は何も言わなかった。俺が正しいと言ったところで、豚ゴミはそれを受け入れないだろう。
「お前がやったことは殺人未遂だからな。わかってるのか。これは退学ものだぞ。」
俺は豚ゴミの目を見つめ続けた。
「今日は親御さんに連絡したから来たら帰ってもらうぞ。」
俺は見つめ続けた。
それでもずっと同じことを言い続けられた。
俺はどうやら悪者になれたらしい。望んでいたことだ。そう、俺は悪者になりたかった。
だが、何か釈然としなかった。そうだ。俺は自分がしたことを正しいと思っている。人間を差別して小さな世界で手に入れた権力を使い学校内の匪賊を懲らしめる腐ったブルジョワに対して革命を起こそうとしただけだ。
つまり俺は権力者の側から見れば悪者だが、俺は匪賊の側から見ればヒーローなのだ。
まあ、俺が望んだのはジョジョではない、孫悟空ではない、ルフィではない、ルークスカイウォーカーじゃない。
俺は悪者になりたかった。だからこれでいいのだ。いいのだ。
俺は悪者になれた。
俺は悪者になれたんだ。嬉しかった。目標がかなった。目標がかなったじゃないか。ドリーム イズ カム トゥルー。だが、俺は自分が正義の行動をとったと思っている。だから俺は釈然としないのだ。悪者はどう考えても大山たちや豚ゴミじゃないか。
「俺じゃない!」俺は叫んだ。豚ゴミは驚いたように目を丸めた。
「俺じゃないだろう。怒るべきなのは大山たちだろう、同級生の奴らだろう!あいつらのせいで片桐は自殺未遂をしたんだ!あいつらが俺と片桐をそっとしておけば俺は大山を殴ったりしなかった!お前ら豚ゴミどもが俺とか片桐とか田口のことを知っていたのに放っておいたからだろう!俺に怒るな!自分のすべきことをしなかった自分自身を怒れよ!この豚ゴミども!」
豚ゴミは口をあんぐりと開けてしばらく黙った。
「な、なんだその口の聞き方は!」しばらく言ってなんとかそう答えた。
「黙れ豚ゴミ。死ね死ね死ね!!!!」俺は叫んだ。豚ゴミどもは驚いたようにしているだけで何も言ってこない。
「なんでも孤独な奴のせいにするな!」俺は叫んだ。
しばらくして、母親とスーツ姿の父親が二人揃ってペコペコしながら俺のところに来るまで俺は豚ゴミどもが声を出そうとするたびに
「黙れ豚ゴミ!」と叫び続けた。豚ゴミは俺が狂ったとでも思っただろう。だが、俺からしたら、狂っているのはこの学校社会の方だ。
現実を知ろうとしないで過ごす豚ゴミ、弱いものが弱いものを叩き合っているだけなのに、それを友情とでも勘違いしている高校生。全てが狂っている。
つまらない父親の運転する車でつまらない道を帰っている間、つまらない夫婦は二人とも無言だった。何を話せばいいのかもわからないのだろう。
息子とのコミュニケーションを怠っていたせいでこうなったのだ。カスどもめ。
「お前なんでこんなことした。」父親が口を開いたのは家に入って玄関で靴を脱いでいる時だ。
なんでこのタイミングなのか。おそらく車の中で口を開けば長く会話をしなければいけないし、一家の長として何か聞かないわけにもいかなかったから、仕方なくこのタイミングだったのだろう。
本当にクソ野郎だ。家を建てたことだけを誇りにして、ひっそりと死んでいくだけのつまらない人間め。俺は心の底から軽蔑した。まあ、だが大山たちのように人に害を加えるのではないからいいだろう。許してやろう。
「何も知らないだろ。」俺はそうとだけ答えて自分の部屋へ行った。
部屋で俺は天井を眺めた。いつものつまらない天井だが、窓際に茶色いシミがあることに気がついた。毎日見ていたはずなのに、あんなのいつできたのか。気がつかなかった。
目を閉じて片桐美梨のことを思い出した。彼女は俺がしたことを知ったらなんと言うだろうか。俺が彼女が自殺しようとしたところを救ったのは知っているのだろうか?片桐美梨の母親から電話があったのだから、本人も知っているだろう。
俺が大山を殺そうとしたことはもう知っているだろうか?それはないだろう。知ったらどうするだろうか?喜ぶ?あるいはそれを怒るだろうか?
わからなかった。俺は片桐美梨のことが好きなのに、片桐美梨のことを知らなさすぎた。
昼が過ぎると父親は仕事に戻るのか、車に乗って出かけて行く音がした。母親はパートの日のはずだが、息子を監視したいからか家にいるらしかった。
俺は顔を合わせたくはないから、下の階には降りなかった。
「お昼ご飯なにがいい。しばらくして」母親が俺の部屋をノックした。
「いらない。」そうとだけ答えた。
「ごめんね。最近かまってあげれてなくて。」ドアの向こうからそう言われた。母親には母親の思うところがあるのだろうか。
俺はなにも答えなかった。しばらくドアの前にいたようだが、階段を降りて行った。
俺は「いらない。」と行ったものの腹が減ってきていた。昼飯用にと購買で買っていた焼きそばパンをカバンから取り出して頬張った。
だが、それはいつも食べていて全く同じ味付けのはずなのに、あまりにも不味く半分も食べることはできなかった。やたらと口の中の水分がパンに取られて何度かつまりそうになった。
焼きそばパンを食べていたはずなのに、口の中は鼻水の味がした。俺はいつのまにか泣いていた。
(つづく)