アナウンサーはなぜ原稿を間違わずに読めるのか
こんにちは。言語聴覚士×フリーアナウンサーの木山幸子です。
今回は子どもの発達の話ではなく、アナウンサー色強めの内容です。
私の社会人としてのキャリアはCATV局から始まり、アナウンサー&ディレクターという肩書きで仕事をしていた時期が長くありました。イベント司会や中継、ナレーションなど、多岐に渡ってお仕事をさせて頂きました。
アナウンサーは初めて見る原稿でも読み間違いをしない
ところで、アナウンサーといえばニュースですが、皆さんはアナウンサーという職種の人たちがなぜ間違うことなく原稿を読めるのか、想像つきますか?
「手元の原稿でなく、プロンプターと呼ばれる正面の投影像を見て読むから」という意見もあるかもしれませんが、今回解説するのはもっと根本的なところ。彼らは目の前に初めて見る原稿があったとしても、読み間違えることがほとんどありません。緊急で差し込まれたニュースをしどろもどろに読んでいるアナウンサーなんて、見たことありませんよね。
どうしたらそんな芸当ができるのか。今回はその疑問を紐解いてみたいと思います。
音読するときに脳の中で起きていること
ニュース原稿を読むのは音読と同じです。違う点をあげるとすれば、音読は手元の原稿をずっと見ていても許されますが、ニュースはそれができないということくらい。今回はその点は省略して、音読の能力について解説します。
私たちが音読をするとき、目で文字を見て、それを声に出していきます。音読はひたすらこの繰り返しです。この一連の動作のとき、脳の中で何が起きているのかをみていきましょう。
まずは①目で文字を見ます。見た文字は神経を通じて脳に送られ、②脳がその文字を判断します。そしてそれを声に出すために、③必要な音を脳の中で配列させ、その後それを声に出して読むよう④運動指令が脳から出されます。運動司令は肺や声帯や舌や口といった発声・発音のための器官に届き、⑤その器官が司令通りに動いて原稿を読むことができるのです。
「アナウンサーは滑舌がいい」と言われますが、この「滑舌」は、主に最後の⑤の部分です。もちろん、滑舌練習のプリントを読んだり、覚えている早口言葉を暗唱したりする過程で脳の回路も使ってはいますが、基本的には⑤だけであると今は説明しておきます。つまり、滑舌練習だけをしても原稿を間違わずに読むことはできません。
音読するときに大切な”視機能”という力
先ほどの脳で行われている①から⑤の動作は、一瞬の間に起きています。①から⑤までがほぼ同時に行われているように見えるかもしれません。ですが実際には、⑤の声に出しているとき、①の目線は、声に出している部分のほんの少しだけ先を見ています。目で追っている部分と声に出している部分がわずかにずれているのです。①の目線が、実際に口にだして読んでいる部分よりも先読みをしているからこそ、間違わずに読むことができるのです。
声に出している部分と目線の、ほんのわずかのズレ。これが、音読をすらすら読むポイントになります。とはいえ、見ている部分と声に出している部分が大きくずれていたら、音読は不可能です。ほぼ同時に見えるくらいのわずかなズレを調節する脳機能があります。それが視機能です。
視機能は視力ではありません。見る注意力のことです。私たちが目で見た情報は脳の後頭葉という部分に送られ、そこで処理されます。そしてアナウンサーはこの視機能が特に優れている人種だといえます。
振り返れば私も、子どもの頃から音読が得意な子どもでした。アナウンサーを目指すような人たちの多くは元々、教科書などをすらすら音読できる能力の持ち主なのかもしれません。言語聴覚士に転職し、脳のあらゆる機能について精通することで、この視機能が音読に与える影響について気づくことになりました。
視機能は生まれつきのもの?
生まれつきの能力なら伸ばすことはできないの?と思われるかもしれませんがそんなことはありません。視機能を伸ばすトレーニングがあります。
現役時代、後輩や学生たちに「間違わずに読むためには新聞の音読をしたり滑舌を頑張ったりするべき」と指導していましたが、今ならそんな助言はしません。間違いなく視機能を鍛えるトレーニングを勧めます。(もちろん、滑舌や原稿読みの練習も大事ですけどね)
言語聴覚士×アナウンサーが指導する、ニュース原稿をスラスラ読めるトレーニング、ご興味ある方はオンライン指導にご参加ください。
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