心臓の裏側
1年ぶりに鍼へ
体が動かなくなると助けてくれるその手は
今日もわたしの背中や腹にこれでもかと気を送る
痛くて息を止めそうになるのを深呼吸して
その手が奥のほうまで届くよう
呼吸を合わせる作業が続く
たびたび声が漏れる
こんなに傷んでいたのかと
ただただからだにすまないと詫びる時間
左の肩甲骨の筋
ちょうど心臓の裏側
そこが特に硬い
もう鈍い金属の塊が呼吸器を圧迫しているように苦しい
その場所の傷みは、心から来ると
心に苦しみを抱えすぎるとそこに気が届かなくなり滞る
心臓の裏側
咳が止まらないのは
その苦しさから解放を求めるもののよう
10の置き針が刺さったままの背中で
今もその人の手を感じる
手というよりもからだそのものを
なんという力だろう
さっきまでとは別のからだになり
呼吸が深くできるようになっている
まだ塊は背中にへばりついているけれど
だいぶ薄くなった
どうにか剥がれていきそうな気配もする
心臓の裏側
そこに溜まっていたものは
喪失の予感
不在への不安
ひとりでどうにか生きねばならぬという奢り
血迷い揺れ惑う心そのもの
わたしを支える幹の一つが朽ちるのを感じ
それもまた養分になり
わたしをわたしたらしめることを感じる
病んでもなお
朽ちてもなお
そのいのちは
生かすことをやめない
傷む背中に問うてみる
わたしも誰かをそんなに愛せるのだろうか