選句を10倍たのしむ方法
『選句を10倍たのしむ方法』
投句済んだし
さー、次は選句をするぞー!と意気込むあなた。
でも、
「選句って、ただ感じるままに気に入った句を選べばいいんでしょ?」
「そもそも選ぶってどうするん?」
「何となくこの句なら選評を書けるから……」
と、迷ってはいませんか。
そうなんです。選句においては、何十、何百、場合によっては何千とある句の中から自身の俳句観を通して佳句を選び、その俳句から受けた感銘を言葉にまとめていくわけですから、どんなに句歴がある方でも迷いに迷っているのです。
でも、迷っているだけでいいのでしょうか。
このnoteは「選句は、こう考えたらもっと楽しめるのでは」という私からのささやかなアイデアを詰め込んでまとめてみたものです。
そしてあくまで選句に悩める自分のために書いたものでもあります。
良い選句?いや、"正しい選句"と言うべきなのか?選句というものはある意味、句作よりやっかいなものでもあるし、句作とは違った視点に立てるのでそこが魅力!でもあります。
では、「楽しむ選句」とは何か。
最後までお付き合いくださると幸いです。
-----------------
この書では読み手による選句=選ぶ理由として一瞬は選評を脳裏に描いている、ことを前提に選句のことをお話ししています。
まずは、選句において、自分が"考えない"ようにしていることを挙げてみました。
言ってみて少し不思議な気持ちがしますが、選句はあれこれ考え過ぎてしまうとただの言葉の意味の追求になりがちです。
選句のあとの選評は短く、効率的に書くことをイメージする。そして考え過ぎないこと。
そのためには"考えない"ことを作ってみるのも選句が楽しくなる方法でしょう。
(私が主に考えないこと)
1.言葉の意味
2.言葉が使われた理由
3.言葉を嫌う
1.言葉の意味
俳句は十七音と短く、一読して得る印象があると思います。まずは意味を考える前にその印象をしっかりとテイスティングする。どんな色が見えたか、どんな音が聞こえたか、など感じたままを楽しみます。仮に分からない言葉があったとしても慌てて辞書をひく必要はありませんし、たとえ他の人と違った鑑賞だったとしても自分の心に映った情景を楽しむことが重要なのです。言葉の意味を調べるのはそのあとでも十分です。
2.言葉が使われた理由
一句における詩的背景を理解すること以外において、なぜこの言葉(表記)が使われたのかと考える必要はありません(例えば英単語が入っていたり、かぎかっこを使っていたり、など)。理由を追究してしまうと憶測に繋がってしまったり、選評を書くときの自身の自由な発想の邪魔となる場合があります。「きっと作者はそういう言葉を使いたい気分だったのだろう」と深読みはしないでおくのが、楽しむための秘訣です。
3.言葉を嫌う
文法だったり、歴史用語だったりで、自分の好き嫌いだけで句を選んでしまうのは駄目!までは言いませんが、やっぱり勿体無い気がいたします。作者より込められた一句への情熱(宝)を前にして、読み取る心の戸を閉ざしてしまうことと同じだと思えるからです。どんな句でも愛せることが選句における大切な心構えでしょう。
選句とは「俳句という絵(画像)にそっと合う額縁を捧げること」だと思います。もしくはスポットライトを当てる、とも言えそうです。
詠むときは鬼となり、読むときは仏となる。
それくらいが丁度いいと思います。
次に、
自分が選評につかう言葉を掘り下げて考えてみます。
・印象
・意外性
・奥行き
・詩的
・リアリティ
・言葉の質量
印象
重たさ、軽さ、熱さ、冷たさ、痛み、甘い、匂い、色、音、光、影、人物の感情、、
と言葉を挙げるとキリがありませんが、
これらを一括りに「印象」と言っています。
見えてくる「情景」とは少し違って、あまり映像としては捉えておらず、読後感を五感として感じたままに自分から出てきた言葉を「印象」としています。
意外性
言葉と言葉との落差、です。
球種で言うとフォークボールのような、ストンと方向が変化する箇所を句に見つけると「意外性」があると言っています。似たような言葉に「味付け」があります。味付けは足し算、落差は掛け算のような感覚で使っています。
奥行き
句に広がりがあるかどうか。広がりがあると、「奥行き」があると言います。
読むことでその句が描く空間内(世界)に引き込まれる感覚を得ると、「奥行きがありますね〜。」と言ってしまいます。奥行きがある句は評を書きやすい句でもあります。
詩的
言葉どうしの響き合いが句に彩りを添えている状態のこと。
一つの言葉だけだと見えないが、もう一つの言葉があることで見えてくる情景への感動を「詩的」とよく言います。
例.「夕立」の「犬」
犬の毛の濡れている感じ、毛羽立っているような、寒そうな情景が、二つの言葉によって描かれます。どちらかが欠けると、当然見えてこない情景ですよね。
よく似た言葉に「詩の力」があります。
リアリティ
「詩的」とは違った、ものの本質に迫るようなカメラワークのこと。
「奥行き」に近い言葉ですが、奥行きは空間(世界)に対して言う言葉であるのに対し、もの(物質)があたかも目の前にあるかのような感覚を「リアリティ」と呼んでいます。
実景を描くのに必要な要素と言えます。
言葉の質量
俳句はバランスが大事で、そのバランスを取る為に一つ一つの言葉に感じる重さのようなものを「言葉の質量」としています。
全く同じ言葉でも漢字かひらがなか、表記を変えるだけでも質量は異なります。漢字はやや重くなり、ひらがなは軽く感じられることが多いです。
似た言葉に「鮮度」があり、どちらも「印象」に直結します。また鮮度は「リアリティ」を操作し、質量は「手練れ感」を演出するように思います(言葉の質量のバランスが悪いと俳句に不慣れなんだと思われがち)。
それでは次に、選句の目線について、
句をどのように見ていくのかお話ししたいと思います。
①第一印象、最終印象
何十、何百句もある中から佳句を選ぶコツ。
それは句の「第一印象」の見極めです。
選者がたくさんある句からひょいひょいっと選ぶところを見ると「さすがだな〜」と思ったり、「えっ、ちゃんと選んでるの」と心無しの非難(笑)があったりすると思います。
そこんとこは、先ほど挙げた「印象」だったり、「奥行き」、「リアリティ」などが活きてくるわけです。
選者は一句でも佳句を取りこぼさないように、必死に必死に選んでいます。そこで一句一句に時間をかけて選んでしまうと余計な読みをしてしまったり、気持ちが焦って(時間が無くなったりして)ミスをしたりしてしまうかもしれません。なので、「第一印象」でささっと選んでいくわけです。
どうやれば第一印象が良くなるのか、は句作の領域なので解説はしませんが、ここのところを良くすれば、まずは「予選」として選者の手元に残ります。
私は大体全体の一〜二割程度を目指して予選句を絞ります。落とす理由は「映像がどうしても浮かばない」「言葉の鮮度を損ねている」「言葉の無理・無駄遣いがある」などパッと読んで心に残る「印象」で決めています。
残った数が多すぎる(二割に収まらない)場合は、更に「奥行きがあるか」「質量のバランス」のフィルターを加えて読み直します。そして次は佳作以上を決めていく「最終印象」へ進みます。
最終印象は更に「詩的か」「独創的か」のフィルターを加えて、読み直していきます。その過程で順位などをつけて、特選、並選、と決めていくのです。
②関心句、無関心句
私も人間なので自身が関心ある事柄、そうでもない事柄があります。そこは「言葉を嫌う」ことを考えないようにしていますが、ついつい上手くいかないことも。
ではどうするか。
無関心句であっても佳句として取りこぼさない為には、「全句を三度以上は読む」が一番効果的です。順番としては、前から順番に読む、後ろから順番に読む、もう一度前から読んでいく。です。
気持ちとしては最初に述べたとおり、短い選評を脳裏に描きながら全句を読んでいっています。そこで印象の強さの度合いで、予選句として残していっています。
また、無関心句には「自分を成長させる未知なる要素があるかもしれない」と思いながら挑みます。
とにかくプラス思考で読みまくることです。
あと選評は一句に対する量は問いませんが、なるべくたくさんの句に書いてみることが自身の成長に繋がります。多作多捨ならぬ、多読多書ですね〜。
③白い句、黒い句の見分け方
「白い句」とは「喜、楽」の句であり、「黒い句」とは「怒、哀」の句です。私個人的には人には四つしか感情が無いわけではないと思っているので少し矛盾しますが、句に描かれる情景が果たしてどの感情に結び付いているのか?と考えながら読むと面白いです。
僭越ですが拙句で、
原爆忌鳥の濃くなる西の空
と、季題「原爆忌」の句を例に挙げます。
「鳥の濃くなる西」、に注目すると「哀」の感情が見えますが、
最後の「空」でやや「喜」のような感情が感じられます。
そこから、影と光、人々の表情などを季語の重さと照らし合わせて、
鑑賞を広げていくと、「選句って楽しい!」と感じられませんか。
さて、いかがでしたでしょうか。
選句を喩えて、
「選句はショッピングまたはファッションショーのようなもの」「選句はジムでの鍛錬で磨かれた結晶(肉体)の見定め」など、ご自分なりに考えてみると、更に選句は楽しくなってくるでしょう。
長々と思うことを書きましたが、極力必要なことに抑えてみたつもりです。
noteは便利で、書き足したいときに編集して追記できるので、また気が向いたらこちらに継ぎ足しているかもしれません。
またその際には告知なりしようかと思います。
それでは、
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
おしまい👋