詩 『巡、』 (2022)

巡、

それだから眠れなくて書き記す、ぼやけた思考が巡回している、きみはここにいた、その確らしさを求める数式には出会えなくて、「これは証明の問題ではありません」 言葉という記号すらも解体してしまいたい、表音の、裏側に、表意、憑依、されてしまった意図が、この文字列の表皮に爪を立てて、掻きむしる、快感と自責は隣り合わせだ、いつだって四隅を埋められなくて、ぱたぱたと真っ黒に染まってゆく盤面、ただ、こうして、戯れているだけのたわいの無さが救済になれるのなら、そこに空白なんてできなかったでしょう、きみはそこにいた、思考は巡回するからぼやける、未遂に終わった小火、炎上、の途上、どれだけ測っても体温が低いのです、今日の終わりを記録する数値、文字も数字も閾値、に漂流してばかりで、越えることは叶わないから、僕らはやはり眠れずにいる。きみも、ぼくも、わたしも、さして変わらないはずの夜更けが、いつまでも朝だけを迎えられない。





2022年3月に開催された "Poetry with U" というウクライナ支援オンラインチャリティーイベントの、ご支援のお返しにポストカードとして配布されたものとは少しだけ内容が異なります。そのときの同作品には一行ほどの続きがありますが、それはウクライナ詩人およびご参加いただいた詩人たちへの再会の願いを込めて足したもの。本来はこの形です。ポストカードをお持ちの方は少数かと思いますが、念のため追記いたします。

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