詩 『可視光線』 (2022)
可視光線
その空は青いのか。
半年ぶりに休みが取れた日曜日
地球はどこまでも平らかで、
球体、ということを忘れさせる。
公園のベンチできみを見ていた、
それは一種のメロウな呪いで
錯覚という幻影の中で
眠らない夢を抱いている、
体はいつも正直だから
きみに嘘は吐けなかった、
真摯で陳腐な文字が遠くで
私を否定している、
きみはいつも柔和に笑って
足元の土を指先で突く、
凸凹なのがいいんだ
バランスを取ろうとするから
そこに立つ力がつくんだ、と。
凹み同士が並んだら綺麗だったよ。
頭上を通過するセスナ機の轟音に掻き消された
軽薄で斬新な文字が近くで
きみに肯定される、
それらは全部、
春先のあの一日みたいに暑い日の
アイスコーヒーの氷の中に固まって
時間と共に溶けていった。
あの青を、往くの?
石畳の街の凹凸は
きみを真っ直ぐに立たせてくれていますか。
この空が青いのは
人間の目がそれしか捉えられないからで
可視光線のスペクトルは
どこまでも青だけを送ってゆくんだ。
光は拡散する、
そこに色濃く落ちた影を
それでもきみはしゃがみ込んで
愛おしそうに指先で突く、
ここにあったから
と、また笑って。
その空は青いのか。
幾重にも重ねた嘘と真実を
大事に着込んでしまうのが人間だから。
身包み剥がさなくたって
きみはきみでしかないし、
私は私でしかない。
この匂いは、石の匂いなんだって。
鼻を小さく鳴らしてきみがいう。
ペトリコール。
天気の変わりやすい季節だ、
きっともうすぐ
雨が降るよ。