言葉のプロから教わる、説明力の上げ方。
説明は、難しい。
頭の中にモヤっとしているものを、目の前の人に言葉だけで伝えなければいけないのだから。
でも、私たちは毎日のように説明を求められる。上司に自分の意見を説明し、友だちに面白かった出来事を説明し、初対面の人にさえ、自己紹介という自分の説明をしなければいけない。
だったら、説明を怖がるよりも、ワクワクしながら楽しんで説明する方がいい。
そしてその方法を教えてくれるのが、言葉のプロであるコピーライター・中村圭さんの著書「説明は速さで決まる」だ。
この本には、中村さんがコピーライターとしての経験を元に編み出した、短く、わかりやすく、印象に残る説明の裏技が詰まっている。
具体的には、始めは説明についての前知識。そしてだんだんと繊細な言葉選びの方法を教えてくれる。
今回は、目から鱗が落ちた、印象に残るフレーズの作り方を少しだけ紹介したい。その名も、「透明ルート標識」と「無意識クラクション」。名前だけでワクワクする、さすが説明の教科書だ。
透明ルート標識で説明の道すじをこっそり伝える
透明ルート標識とは、聞いただけで説明の形が伝わる、魔法の言葉。
説明の冒頭に入れれば、聞き手は無意識のうちに準備ができるので、頭にすっと説明が入ってくるのだ。
たとえば、「挑戦」という言葉を、中村さんはこう説明する。
この単語には...「そこに至るまでの障害になりそうなこと」「それをクリアするだけの理由を持って始める」といった意味が含まれています。...この「挑戦」という単語を何かを始めたいという主張に組み合わせると「①成し遂げたいことの前にある障害」→「②それを超えられる理由」という説明のルートを...準備してもらうことができます。
たしかに「一人暮らしをしたい」だけだと、ただ漠然と憧れているだけという印象で終わる。
でも、「一人暮らしに挑戦したい」と言えば、大変なことがあるかもしれないけれど、自分にはできるはずだという前向きな気持ちが伝わるだろう。
その上で、「洗濯や自炊は大変かもしれないけれど、もう大学生だし自分の力で暮らせると思う。」と続ければ、すっと内容が入ってくるという魔法だ。
無意識クラクションでポイントを強調する
ここまで紹介した透明ルート標識は、話の全体を理解してもらうための工夫。一方で、無意識クラクションは、大事な部分を覚えてもらうために使う。
たとえば、言葉を「重ねる」と、似たような一文でもグッと印象が変わる。
「大切な人への言葉は、ちゃんと考えよう。」では、アッサリしすぎていて、あまり印象に残りません。ここで「何か言葉を重ねられないだろうか?」と考えてみます。そうすると、「大切な人への言葉は、大切に考えよう。」と、...「大切に」で重ねられると気づけます。
他にも、問いを挟んだり、韻を踏んだりすると、自然と大事なポイントが頭に残るそう。
「ポイントは3つあります。」はもう古い
「透明ルート標識」と「無意識クラクション」に共通していること。それは透明、無意識という言葉からもわかるように、相手が気づかないくらいの些細な言葉遣いの違いで、説明のレベルをグッとあげること。
説明をわかりやすくする方法として、「ポイントは3つあります」と最初に言い切って、「ひとつめは...」と順番に話す方法がある。
しかし、これでは「速い説明の時代」を生き抜けないと、中村さんは言う。
自分にとって得な情報かわからないのに3つもあるとわかったら、最後まで聞いてもらえない可能性があるからだ。
SNSなど様々なプラットフォームが発達し情報が溢れている中、今まで以上に相手の脳に負担をかけない説明を心がけなければいけない。
それが現代の「おもてなし」であり、心づかいなのだ。
自分の思ったこと、感じたことが伝われば、相手との距離もぐっと縮まる。道具の使い方を覚えるみたいに、少しずつ速い説明を身につけていこうと思う。