夕方という自然
2022年4月に40周年を迎える共同学童保育所虹の子クラブ。
指導員ごんちとOB保護者有志による40周年記念誌の準備も着々と進んでいます。表紙写真候補の選定の時、とてもすてきな夕暮れの写真がありました。(上の写真とは別のものです。記念誌をお楽しみに!)
ジャングルジムのてっぺんに子どもが2−3人。
逆光で顔が見えるか見えないかくらいの夕空を背景に。
とてもいい写真だけど表紙は希望を感じさせる、明るい青空の方がいいのでは?という意見が出た時、指導員 G が「いま夕方まで遊ぶ子どもの少ない時代に、僕らは夕方まで遊ぶよ、というところで虹の子らしさが出てるかなーと思うんですけど」とコメントしてくれ、「なるほど。確かに!」と思いました。
その後たまたま仕事がらみで読んだ本に、"はっ"とする箇所がありました。
この本が出版されたのは1992年、今から30年ほど前。
「こども・ことば・物語」について各界の著名人が語った講演・対談録です。その時点で、サル学の研究者である河合雅雄氏がこんなふうに言っています。
(1) 今の子どもは自然と出会う機会が非常に少ない。
(2) 3人以上の群れ遊びの経験が減っている。
(3) 時を忘れるほど夢中になって遊ぶことが少ない。
この話を受けての午後の対談の中で、
自然というと田舎へ連れていったり、野原へ連れていったりしなければ出会えないもののように思われがちだけれども、「夕方と出会うかどうかというのは日常の中で割と楽に出会える自然ではないかと思う」と言った人がいました。
「昨日の夕焼けきれいだったけれども、見たかい?」とこどもたちに聞くと、あまり見ていないですね。夕焼けを見るような時間に表で遊んでいない。その時間に塾に行ったりなんかしているということになると夕焼けにもあまり恵まれていないのかもしれませんね。(村田栄一)
"夕方" というものについて、河合雅雄さんはこんなふうに書いています。
ふっと気がつくと、えっ、もうこんなにおそかったのか、暗くなったのか、あれだけはっきり見えていたものがびっくりするほど急に薄暗くなります。(中略)
「たそがれ」というのは黄昏と書きます。夜と昼が交代するあわいの時間。これはとてもおもしろい時間ですね。そこには夜の魔物が出てくるわけです。人さらいだとか、いろいろなやつが出没し始める。そうすると、ぞぞぞっとしますね。そうしてヨタカが鳴きはじめる。それから遅れたゴイサギが異様に奇妙な声を出して飛んでいく。子ども心にあの恐ろしさというものを、いまだに忘れることができません。
子どものときに、そういう遊びを通じて一種のフィクションの世界をつくりあげていきます。(河合雅雄)
これを読んで、子どもの生活と児童文学がつながる気がしました。
子ども向けのお話、児童文学の特徴はこのふたつなのですが:
・向日性 (何があっても希望が持てる終わり方)
・往きて還りし物語 (冒険に行っても必ず元の世界に戻ってくる)
夕方、暗くなり、友達が1人2人と帰って行くとなんだか心細くなって、慌てて自分も走って家に帰る、というのは、日常の中の「冒険→安心できる自分の世界へ戻る行動」といえます。昔の子どもは、本を読む機会が少なくても自分自身で物語を作り出せていたのかもしれません。
いま、確かに日本では夕方まで遊んでいる子は少なくなりました。
背景には、10年おきの教育改革で子どもたちの生活に余裕がなくなってきているということがあります。
表の左からふたつめの項目「学習指導要領改訂のポイント」にある「学習指導要領」とは、
全国どこの学校でも一定の水準が保てるよう、文部科学省が定めている教育課程(カリキュラム)の基準です。およそ 10年に1度、改訂しています。子供たちの教科書や時間割は、これを基に作られています。
(文部科学省ホームページ「学習指導要領とは?」より)
赤字で書いた授業時数だけをみると「なるほど、2017年と1977年の授業時間数は同じだから元に戻ったのね」と思うかもしれません。でも、昔と比較すると、
1) かつて高学年でやっていた内容が低学年に降りてきた
2) 英語やコンピュータ等の情報科目が増えた
3) 話し合いのなかで自発的に学ぶことが期待されている=グループでの会話重視
4) 1977年に増やされた行事は減らされていない
など、取り組むべき内容が増えて難易度が上がっているために、学校内ではやり方を教えるだけで手一杯(=わかるまで繰り返して演習をするのはご家庭で)、となっています。
祖父母の世代では「家ではなーんにもせず遊んでばっかりだったけど、学校の勉強だけでなんとかなったわよ」は本当だったかもしれませんが、現在のカリキュラムはある程度の家庭学習が前提なのです。
上の子が入所した頃、虹の子には毎日、子どもたちによる掃除当番がありました(*注)。でも学習指導要領が変わって授業時間が増え、1年生の帰ってくる時間までぐっと遅くなったある年、指導員が「遊ぶ時間を確保するために掃除当番をなくします」と保護者会で宣言しました。
私はその時、「掃除くらいさせたらいいのでは...」と正直驚きましたが、今ではその時の「なんとかして遊ぶ時間を確保してやらねば」と危機感を持った指導員たちの想いがわかる気がします。
高学年会議の日は、会議をするばかりではなく、日の暮れた公園で遊び回ることがあります。その日に晴れやかな表情で帰ってくる子どもの顔、みんなで見た月がすごく大きかったとか、昼にみんなで大きな虹を見つけただとか、何回チャレンジしても(コマ検定の)橙ヒモがとれない!と悔しがるとか。指導員たちは、河合雅雄さんが「今の子に失われたもの」と挙げているものをどう提供しようか工夫してくれているのだなと思います。
そして、保護者も。
実施できるかどうかわからない毎年恒例の親子キャンプやたこあげ。
いつまん防 (まん延防止等重点措置)で無駄になるかわからないからやめましょう、ではなく、ギリギリまで諦めず、情勢を見極めたり、準備を続けてくれた親子キャンプ委員さん・たこあげ委員さんが本当にありがたいと思いました。先が見えない中で希望をもらったように思いました。
親子交流委員会さんの、知恵を絞った Zoom の集まり、クリスマス会代わりの宝ヶ池公園ハイキング。あっと驚くほどの手の込みようで、発想が自由でワクワクしました。新型コロナの感染対策というシバリがありながらも、そのルール内で楽しめることがこんなにある、とあかるい気分になりました。
秋まつりができなくても、それに代わるものをとお楽しみ会が生まれ、
コロナで子どもたちの遊びが危機だとなったら、保護者会長がボランティアで校庭を所狭しと走り回る水鉄砲大会や「だれもけがをしない運動会」を企画し。(ソーシャルディスタンスを逆手に取って)
おやつはかつて、各家庭持ち回りで年に1回くらいおやつ当番がありました。現在は当番制がなくなり、「子どもたちにより良いおやつを!」と熱意あふれるおやつ委員さんと指導員が話し合って、業者おやつと手作りおやつ、季節行事を大切にしたおやつを提供するスタイルに落ち着いています。
学習・広報委員は、密になってはいけない状況のなか、やり方を工夫して、会えないからこそ名前や人となりを知る手がかりとなる新入所歓迎文集や卒所文集の発行をコロナ禍でも続けました。
この、note を使っての「虹の子をよりよく知る / 子どもを取り巻く今を知る」ことをめざした学習活動も、保護者会後やイベント時の雑談ができなくなったので、雑談の中でなんとなく受け継がれてきたものの代わりにならないか...との思いから始まった新しい試みでした。
そして、三役・労務会計、運営推進委員、会計おやつ掃除委員。
縁の下の力持ちとなって、どれほどの協議やこまかな事務作業を重ねてくれたかわかりません。以前からある課題に加えて、次々に降ってくる新型コロナ対応問題にもあかるく対応してくれたことに心から感謝しています。
全委員さん、本当にありがとうございます。
また、本当に意味のある感染対策とは、と情報が混迷する中で正しい情報にアクセスしようと懸命に努力してくれていた指導員と保護者の姿を忘れることはできません。
一時、「まん防」が解除されていた時期に、本当に今、行事を行える状態なのかどうかを他の学童の指導員仲間にどうするか聞き合わせたり、医師の保護者にどう考えるかを尋ねたりしながら、真剣に悩んでできることを考えてきました。他の学童が行くならうちも、というような決め方は決してしてこなかった、その姿がとても頼もしく見えました。
逆に、子どもたちの心の危機を察知して、いま行事は中止するべきじゃない、感染対策を万全にしてできることだけでもやるべき、とがんばってくれたこともありました。その判断の確かさに感謝しています。
虹の子は、大人が自分の子だけでなくすべての子どものために汗をかいてくれる、今時珍しい場所だと思います。「おとなとこどもが共に遊んで、ひとつの物語を紡いでいく場所」(鶴見俊輔, 上記本より) が虹の子なのかもしれません。
* 虹の子ミニ知識 *
子どもたちの当番制の仕事がどんな感じで減ってきたのかを指導員の記憶を頼りに振り返ってもらったところ、こんな感じだそうです。
2015 少なくともこの時期まではフルで掃除活動
(教会の庭掃除・トイレ掃除・皿洗いをやっていた)
2016
2017
2018 遊び時間確保のため「トイレ掃除」を長期休みのみに変更
2019 コロナにより「トイレ掃除」を完全中止
2020 「皿洗い」を班当番から個人に変更(セルフおやつの影響で)
私たちの学童:
一般社団法人 共同学童保育所 虹の子クラブ
2022年に創設40周年を迎える京都市上京区の学童保育施設。
民設で学区のしばりがないため、新町学区、西陣中央学区、御所南学区、乾隆学区のほか、国立大附属、インターナショナルスクールなどさまざまな学校の小学生が集います。
保護者全員が経営者として運営に関わる「共同学童保育」というスタイル。創設時から6年生までの多年齢保育を実施、経験豊かな指導力ある指導員とともに、親も成長できる場としてみんなで協力して運営しています。
モットーは
「子育てに夢とロマンを」
「里芋は子芋と一緒に親芋も育つんだって。里芋のような親子になろう! 」
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