墓場寄席 後書き
『墓場寄席』の全編読了、誠に有難う御座いました。
まず初めに断っておかなければならない事があるのですが、このオハナシはフィクションです。
何をそんな当たり前な、と思うかも知れませんが、このオハナシには肝心な点があります。それは、実は仏教は『火葬』という事です。
関ヶ原の合戦からおよそ二百年後の江戸時代中期、とある寺での展開でしたが、この寺の裏の墓場では、人の身体がすっぽり入る棺桶に入れられて死人は土葬されているという設定でした。
しかし調べてみると古来土葬を行うのは神道系らしく、仏教は火葬、ようするに設定が食い違ってしまいます。
オハナシ一話制作の途中でこの事が発覚したので強引に寺から神社の設定に切り替えようかとも思ったのですが、私の中で神社の様子というのがイマイチ想像できなかったのですね。別段寺と縁のある人生を送った訳でもないのですが。なのでいっそ吹っ切れて、
「まぁフィクションだし、いいでしょ!
お寺で土葬お願いします!」
と図太い腹の括り方をした塩梅です。仏教関係者の方がこれを読んでたら、ごめんなさい。
個人的にはどうしてもあのシーンがやりたかった。墓の下から死人が躍り出てきて笑うシーン。流石に、あれを骨になってしまった死人にやらせる訳には行かない。体に肉が残り、生と死の境に生々しさの残る体でやって欲しかったんです。
とまぁそんな断りから入った訳ですが、
今回の墓場寄席、幾つかの実際の落語を参考に作らせて頂きました。
まず初めて『にぎり目』こと光吉が墓場で披露した落語ですが、これはあの「サンマは目黒に限る」で御馴染みの題目『目黒のサンマ』です。
ある殿様が遠乗りした先の目黒で、たまたま庶民風の脂がしたたったサンマを食べたところ非常に感動するんですね。そしてまた食べたくなって家来に申し付ける訳です。そこで家来は殿様に出すものだからと、日本橋の魚河岸から仕入れたサンマを調理します。体に悪いと言うので脂をすっかり抜き、骨を全部抜いた為に身はズグズグに。そのサンマが不味いのなんの、そこで例のオチに着くのが、『目黒のサンマ』です。
この目黒のサンマを改めて聞こうとyoutubeで探したところ、金原亭馬生師匠の渋い声で聴ける動画がありましたので、以下にリンクを貼っておきます。
https://www.youtube.com/watch?v=j985ow8kGpI
その次に出てきた噺、徳利がどうのこうのという噺でしたね。これは『禁酒番屋』です。いつの世もお酒の飲みすぎは身体に良くないようで、医者から禁酒を言い渡されたお武家様がそれでもお酒が飲みたい、飲みたいという。こっそり酒を届けてくれと酒屋は言われますが、お武家様に届ける前に番屋の審査が待っている。この番屋はお武家様が禁酒を言い渡されてるのを知ってるんですね。さて、いかにこの番屋の目をかいくぐって酒を届けるのか、が話のキモなんですが、面白いので是非続きはリンクの動画からどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=sVZqbZHFfDU
驚いたんですが、この禁酒番屋をしてらっしゃるのが立川志の輔師匠、名前が「シノスケ」なんですね、いや驚きました。作中に出てくる問屋の三男坊、親不孝のシノスケは私が適当につけた名前だったのですが、こんな所でリンクするとは。
横にそれた話を戻しまして、
最後の落語は『猫の皿』です。作中では「そうだ、俺は猫が好きで好きでたまんなくてね」なんて言うセリフがあったじゃないですか。ところがこの人実は猫が全然好きじゃないんですね。猫が嫌いなのに、猫が好きという。いやぁどうしてでしょ。気になった方はこれもリンクからどうぞ。私も大好きな噺です。
https://www.youtube.com/watch?v=CwZ4aacAsAg
とまぁ、えらそうに後書き何ぞを書いた訳ですが……。
みなさん、お判りですか、これを書いたのは一年以上書く事をほったらかしてたバカチンなんですよね。とにかく今思う事は――よくもまぁ、ここまで書ききれたな、と。このオハナシを書く時、もし書ききれない事があったらもう筆を折ろうと思ってました。それか、とんでもないゴミ作品しか書けないようだったら、それも辞めようと。
後編が終わった後に一通り読み返してみたんですが、まぁ、良いんじゃないんでしょうか。まだ、書き続ける覚悟が私の中でつきました。
なにより一年以上も音沙汰無しだったのにも関わらず、またこうして皆様が読みに来て頂いた事、本当に感謝します。
復帰したてなので更新などもかなり変則的になるとは思いますが、何卒お付き合い下さればと思います。
それでは良い一日を、けんいちろうでした。
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