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死なずの守り人

この村には不死の男が居ると言う。
話を聞きに行くと寝たきりの老人だった。

「おいくつですか」
「とうの昔に数え損ねてもうわからん」
「どうして死なない身体に?」
「いや、死ぬはずだった」
「だったとは」
「死神様がきなすって、俺の魂をひとかじりしてよ」
「はぁ、かじられて」
「そしたら、
 これは美味い、
 今まで喰ったどの魂より美味い。
 お前は一番最後に喰うとしよう、
 とおっしゃる」
「あらま」
「そうしてほれ、この有様じゃ。
 いつまで経っても最後の番とやらが回ってこん」
「一つ伺っても。人の魂の味って何で決まるんですか」
「知りたいかい」
「ええ」
「嘘を吐きなされ。盗みも良い。
 人を殺すなんざ、一番だ」
「悪い事をしろと?」
「ああ、あんた試してみんかね。
 そうして俺の魂よりアンタのが美味しくなれば、
 今度はあんたが死なずの身体になる」
「そんな、とんでもない」

背筋が冷えて、
老人の家を足早に去り世話をしてくれるという家に舞い戻った。
家の方々はとても親切で、
飯が美味い事から始まり、
風呂、寝床、何から何まで至れり尽せり。
朝になり村を離れるとなると土産も沢山持たせてくれた。
他の村の方々もまるで我が子が出て行く時のように良くしてくれる。

そこでふと、頭が回った。
二度と行くまいと思った不死の老人の家へと赴く。

「今日でこの村を去ります」
「そうかい、あっちでせいぜい沢山悪事を働いてくれや」
「ほんとうは?」
「ああ?」
「村の誰に聞いても、
 アナタが死ななくなった理由を知らぬ人はいなかった。
 この村の全員が知ってるんだ。
 だからこの村はこんなにも」
「余計な事を言うなっ」

動かないと思っていた老人の手が、
まるで嵐に揺れる枯れ枝のように震えながら私に向き、
今にも折れそうな人差し指が私を咎めた。

「もう一言も喋るな、
 このまま村から出ていけっ。
 何か喋ったら、死神がお前を喰いに来るぞっ」

それが餞別の言葉、
私は言われた通り一言も喋らず、この村を出た。

この村は死なない老人が住む村。
誰もが平和に暮らす、至って穏やかな村。
この村から罪人が出た事はここ数百年は無いらしい。

老人が死なない本当の理由は、
恐らくもう誰も知らない。

もう数百年この村を、寝たきりで守っている。

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