焼肉店「スタミナ苑」(豊洲他)の人気の秘密と新規事業へかける想い ~江東区中小企業診断士会 企業訪問vol.1~
江東区中小企業診断士会では、江東区で頑張る企業を応援し、地元の人に知ってもらうために、江東区内の企業を訪問、経営者インタビューを行い、ご紹介していきます。
第一弾は、豊洲の人気焼肉店「スタミナ苑」等を展開する有限会社アクス様をご紹介いたします。
■企業概要
会社名:有限会社アクス
住所:江東区豊洲四丁目1-1トヨスピア21・3F
代表者:代表取締役 呉 鐘植
HP:焼肉スタミナ苑 韓国食堂チャン 公式 (akusu.co.jp)
事業概要:江東区豊洲、中央区月島に焼肉店、韓国料理店等を5店舗展開
豊洲駅を降りてすぐに立地する「焼肉スタミナ苑 豊洲駅前店『極』」は、行列のできる人気焼肉店です。
現代表取締役の祖母が江東区で始めた焼肉店は、70年以上地域に愛され今に至ります。
繁盛店の地位を確固たるものにしている同社ですが、ここに至るまでに狂牛病問題やコロナ禍など、数々の苦境がありました。そのような苦境を乗り越えた現在、店舗運営は順調となり、2024年3月には新たに自家製キムチのEC販売事業と、自動販売機での販売、また業務用卸売販売事業を開始しました。
このたび、呉 鐘植(オ ショウショク)社長(以下、社長)と呉 涼順(オ リャンスン)取締役(以下、涼順氏)に、飲食店経営へのこだわりや、新規事業進出へかける想いについてお伺いしました。
プレスリリース
老舗焼肉店“焼肉スタミナ苑”が、自社国内工場を新設し、キムチのEC販売をスタート。今後業務用販売としても力を入れていきます
【美味しさの追求とホスピタリティの精神を大事に】
―――人気店を経営されていますが、飲食店経営において大切にしていることを教えてください。
(社長)
まず、私は食べ物と食べることが大好きです。そして大食漢でもあり、いつも周囲から食べる量の多さに驚かれます(笑)
自分が飲食自体を好きだからこのように考えるのかもしれませんが、飲食店経営で大事だと思うのは何より、美味しさの追求です。
美味しいものを食べると、自然と笑みがこぼれます。私どもの提供する食を通じて、お客様に感動していただきたいと考えています。
江東区はプロスポーツ団体もあり、スポーツが盛んです。スポーツで人は感動しますが、食も人に感動を与えると思います。
私が大事にしているのは、提供する食事の味には特にこだわり、多店舗展開をしている現在も、「どんなに忙しい時も味見をかならず欠かさないように」と各店長に徹底しています。
それともう1つ大切なのは、ホスピタリティの精神を持ってお客様と接することです。
味だけでお客様を感動させたいと思っていた時期もありましたが、ホールでの接客も大事だと思うようになりました。
味覚の鋭いお客様に良い食事を提供しても、美味しいだけでは満足していただけません。良い接客も加わってこそ、感動を与えることができるのです。
私は今も客として各店舗で食事をし、お客様に、常に最高の味とサービスを提供できるように確認しています。
【味自慢のキムチを全国に届けたい、という夢の第一歩】
―――キムチ製造工場を新設して、ECや自動販売機を使った販路開拓にも挑戦されています。その動機やきっかけをお聞かせください。
(社長)
今回、インターネット販売を活用し、当社のキムチを全国で購入できるようにいたしました。
実は、キムチを全国で販売したら良いのではないかという構想は、私の親が店を切り盛りしていた自分の下積み時代から考えていました。親戚やお客様より、キムチの評判が良く、売れるのではないかと感じていたからです。
うちのキムチは防腐剤などを入れずに発酵することで乳酸菌などが出て健康と美容にとても良い食品です。また、果物などを入れ、辛さだけでなく甘みも加えて、独自の味付けにしています。
ただ、「本物の発酵しているキムチを全国に流通させたい」と思ってはいましたが、大きな投資と体力が必要となりますし、本業である焼肉店が忙しくて、なかなか実現できませんでした。
実は、日本で一番売れている漬物は、キムチです。それほど、日本人の食生活に溶け込んできました。そのきっかけは1988年韓国初の夏季オリンピック(88オリンピック)でした。韓国の歴史や伝統、食文化等々、世界に向けて大々的に宣伝され、その後、激辛ブーム・韓流ブームが相まって近年は益々焼肉料理や韓国料理が人気を博しております。
現在(2024年4月)は、コロナ禍からの回復もあり、本業の飲食店事業は好調です。ただ現場から離れて俯瞰すると、この好調はいつまで続くのか、決して盤石なものではない、と感じています。
お客様の世代や価値観が変わってくる中で、自分たちも変わらねばならない。
今の飲食店でお客様のご支持を頂いているが、変化し続けないと淘汰されてしまう、という危機感が常にあります。
はたして飲食店一本だけで良いのだろうかと悩んでいた時、経営リスクを減らすためにも「以前から温めていたキムチ販売を、今こそ始めよう」と思い立ち、販路拡大も含めてEC事業化を決心しました。
やりたいと思っていたこの事業を、中小企業診断士の助けも得て、涼順取締役もECの勉強をし、力を合わせて一歩を踏み出すことができました。
立ち上げまでは大変でしたが、ようやく工場運営も形になってきて、売上も少しずつ上がってきています。これからは宣伝をして、全国のお客様に自慢のキムチを知ってもらい、お届けしたいと思います。
【秘訣は常に危機感、向上心を持ち続けること】
―――創業約70年ですが、飲食店を永く続ける秘訣はどういうものがありますか?
(社長)
私は、親から事業を継いだだけだと思っています。そして、自分の子どもにしっかり事業を承継したいと思います。
ただ私が事業を継いだ時、ビジネスとしてしっかりやれば事業はうまくいく、という確信はありました。
事業の現状を維持して満足するのではなく、常に危機感を持ち経営すること、向上心を持ち続けること。それは今も昔も変わらない、私の姿勢です。
たとえばお客様に常に良い食事を提供するために、肉質はまだまだ改善していきたい。
店舗に行き自分で食事をし、提供される肉質が最善かを確認しています。
また各店舗でも細かくデータを取っており、それらも見ながら必要に応じ取引先に交渉することもあります。
肉の仕入れだけで複数社があり、常により良い状態を目指し改善を続けなければいけません。
これが、飲食店を永く続けるのに重要なのかもしれません。
【客層変化への対応】
―――豊洲はオフィスビルやマンション開発、商業開発が進み、観光客も多くなっていますが、顧客層の変化はあるのでしょうか?
(社長)
コロナ禍も明けてきて、観光客、特に外国のお客様が増えています。ランチタイムは外国のお客様ばかりの時もあるくらいです。
ひと口に外国人と言っても、コロナ前は中国人が多かったのですが、今はヨーロッパ、東南アジアなどからのお客様が多いです。
―――外国の観光客が、どうしてスタミナ苑に来店するのでしょうか?
(涼順氏)
豊洲にホテルができた影響もありますが、誘客施策として、ビジネスホテルなどの入り口にショップカードを置いてもらっています。
他にも、Web上では、検索対策として店名の英語表記、Tripadvisor内でのページ作成など、外国人を意識した発信をしています。また、店舗では外国人用のメニューも作るなど、お客様が安心して注文しやすいような準備をしています。
日本のお客様については、コロナ禍が落ち着いてから近隣で働いている団体の宴会客が増えました。20、30人という団体さんで、2、3月はとても多かったですね。
―――豊洲だとその人数が入る飲食店はあまりないですね。
さて、最後にお聞かせください。キムチ製造工場などの挑戦を続ける貴社ですが、今後、どのようなことに挑戦していきたいでしょうか?
(社長)昨年は、キムチ販売の準備などがあり、出店依頼がありましたが断りました。今年は1店舗出店したい、と社内で話しています。
(涼順氏)
キムチ販売のECは始めましたが、今後はキムチの卸売を本格的に始めたいです。
―――知名度の点でも、スーパーなどに置けるようになるといいですね。
(江東区中小企業診断士会)
取材後、豊洲駅近くの自動販売機で購入したキムチは、辛みの中にも甘みがあり、食べると笑みが溢れる美味しさでした。
焼肉店「スタミナ苑」の人気を支えるのは、美味しさのあくなき追求だけでなく、お客様の変化に合わせて自分たちも変化していくという姿勢がある、と感じました。
当会は、これからも地域で頑張る会社を応援していきたいと思います。
(執筆:安田和博)
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