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【0032】えむしたのこと「花束にでもなった気分だった」
抱きしめられたわたしは、まるでえむちのためだけの花束にでもなった気分だった。もう、しんじゃってもいいなんて思わない。だけど、この場所はわたしだけのものにしておきたい。誰にも渡したくない。できることなら、ずっとえむちと歌っていたい。どうして、たったそれだけのことが叶わないんだろう。これまで、自分の病気を呪ったことなんて一度もなかったのに、いまはどうしようもなく歯がゆい。
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ルームシェアをしながら、歌い手活動をしている「明日」と「えむち」。明日の部屋の一輪挿しが枯れ、花瓶の水が澱みはじめた頃、えむちはようやく今回の失踪が普段の気まぐれとはどこか違うのではないかと察する。不安は的中しており、明日の体には常盤色化と呼ばれる異変が生じはじめていた。植物の蔦を模したようなしみが皮膚に広がり、やがて全身を覆ってしまう奇病。一方、えむちはある事件をきっかけに人前で歌うことができなくなっていた。移り変わってゆく、彼女たちの季節を追う物語。
小説「えむしたのこと」
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