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【0004】えむしたのこと「バカ馬鹿バカ馬鹿」

 どうして、いつだって手の届く範囲にいてくれないのだろう。欲しいものは欲しいと宣言しなければ手に入らないと思ったから、わたしは明日を自分のテリトリーに連れ込んだのに。明日は全然、わたしだけのものになってくれない。一緒に住めば、弱味につけ込めば、舌足らずな小さな口で咀嚼する彼女も、泡が入って赤くなった目で髪をかわかす彼女も、眠くなってわけのわからない寝言をつぶやいている彼女も、全部ぜんぶ自分だけのものになると思ったのに。

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ルームシェアをしながら、歌い手活動をしている「明日」と「えむち」。明日の部屋の一輪挿しが枯れ、花瓶の水が澱みはじめた頃、えむちはようやく今回の失踪が普段の気まぐれとはどこか違うのではないかと察する。不安は的中しており、明日の体には常盤色化と呼ばれる異変が生じはじめていた。植物の蔦を模したようなしみが皮膚に広がり、やがて全身を覆ってしまう奇病。一方、えむちはある事件をきっかけに人前で歌うことができなくなっていた。移り変わってゆく、彼女たちの季節を追う物語。

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