紙谷惠子歌集 :4/5 …ハイカラ神戸おちおち出来ぬ
友達:36首 花:55首
友達
亡くなりし同窓生の姉上と
我行く道に君の影探す
ともだちの米研ぐ音が歯切れよく
ひそかに指で膝をたたく
友の身に奇跡起こりし知らせあり
我嬉しくて希望持つ秋
田舎からクリスマスグッズ送られて
ハイカラ神戸おちおち出来ぬ
手土産の封印されしおみくじの
巳年土鈴に新春感じ
牡蠣を持ち旅の疲れを癒さずに
我に食べよと友来たる寒夜
友来たりあつあつのパスタ鍋のまま
カートにのせてランチいかがと
冬の日にママンが入れたハーブティー
バラの香りが貴婦人招く
玄関にスイートピーの束持ちて
立つ友の顔寒波で赤く
ストールの下に花束抱きし友
寒波に春をひそかにかくす
帰り行く友に合わせて雷鳴が
轟き出してもうひと喋り
シスターが折りし牽牛織姫は
千代紙舟で天の川へと
修道着たたみしシスター衣替え
グレーのスーツ親しさ増して
京劇の女優さんは我が為に
ベッドのそばで素敵に歌を
田さんの歌声耳にどんぐりが
小春日和の相楽園に
冬戻り友と語らうリビングに
28年の隔たりは消え
友が今辿る旅路の地図拡げ
紙上の旅に友を探すや
身につけし十字架に触れシスターの
一途に生きる幸せを知る
有田からみかんに混じり柚子ふたつ
冬至近づき友の想いが
余寒午後大阪の友来てだべり
記憶の糸をたどる楽しさ
徳島は晴れてつくしを摘んだよと
電話の声はほがらかに
友からの笹の短冊願いこめ
今夜の逢瀬晴れますように
友が今リボンに編みしラベンダー
ポプリとなって香りさやかに
文月の我が誕生日赤い花
抱えてきた友落ち着き増して
友が来て旅行計画秋ハワイ
夏は地元でチョコマカするか
澄む空にスペイン神父薪を割り
パエリヤ作り我に味見をと
シスターは衣替え期に修道着
脱ぎて平服十字架光る
冬の夜のドキュメンタリー番組で
古の友夫を看取りて
年に一度集う友等と夏の午後
話題とぎれず祝い事なく
夜八時阿波の蛙の鳴き声が
受話器に届く友の気遣い
ベレーからつば広帽子になるママン
センスの良さに憧れ抱き
主治医留守不安抱えし日曜日
残暑厳しく友来て話す
IL DVOのDVD観終わりて
八十路客若返ったと言い
時間割き見舞いに来た友準夜勤
合のコートを翻し去る
友からのカレンダー文なく届き
元気印と笑顔が浮かぶ
花屋より桜の枝を混え買い
友は我にも春感じてと
花
震災の時まで住みし家並みを
金木犀の香に想いだす
寒椿思わず手折りて手にとれば
描けと唆るチャイニーズレッド
スイートピー光るリビング春が来た
曇ったガラスに指で絵を描く
真夜中に純白ストック白壁に
常夜燈がほのかに影を
夕暮れ時桜満開写メールに
天気予報が気になる我は
すみれ持ち阿波から友の息子来る
高一なるも優しさ増して
手折らずに拾いし花を我に見せ
桜の様子ナースが話す
缶詰のスズランのふた開け10日
花咲く香り君想い出す
デンファレの膨らむをつぼみ擬態かな
小鳥の群れと我には見える
車椅子乗りて知人を訪ねるも
門扉に段差紫陽花が咲く
皐月咲き恩師来られてデッサンす
我をモデルに描く手見つめ
リビングで水揚げ悪いミニバラの
花びら乾き色に魅せられ
デンファレの薄いピンクが夏らしく
白壁に溶けソフトな部屋に
娘の家で摘みし野の百合抱え持ち
老婦人来て快活に話す
咲きかけの月下美人切り取って
湯がき食べてと友来たる夜
菊花展色とりどりの糸菊の
繊細美には暫したたずみ
夕映えに初めて見るや木苺の
枝葉選んで一輪挿しに
紫陽花がフラワーショップに咲き乱れ
隅で向日葵静かに眠り
花の名はレースフラワー水無月の
名にふさわしく涼しげにして
冷房の中で過ごして冷えた身に
夏の盛りをひまわりで知る
吾子という言葉は不思議慈悲深く
作者を見せてひまわり笑う
何故かしら今年は見たい寒椿
地面に落ちた孤独な花も
冬の日の一輪挿しにすっきりと
硬きつぼみのフリージア有り
新春に送られし薔薇リビングに
見事開いて豊かに香り
ベランダのくちなしの花一つ咲き
ローズマリーと香りを競う
なんとなく気持ちが沈みリビングに
我は黙ってりんどう生ける
友からの阿波のすみれは酷暑耐え
小鉢の中に生命保ちつ
ラベンダー節分過ぎしリビングで
一輪開き薫りはじめて
ミニ雛を節分夕暮れ片付けて
一輪ざしに菜の花を生け
ベランダで寄り添うようにシクラメン
ひっそりと咲き階下で桜
盆栽の桜満開リビングに
卯月真夜中美しくなり
我が心動き続けと盆栽の
蕾桜をプレゼントされ
子等好むチューリップの蕾愛らしく
開いてみれば派手花と化け
戴きし親指姫と名前を持つ
チューリップには春のメルヘン
贈られたアンスリウムは赤き色
ワインレッドのリボン結ばれ
蒸し暑く初夏飛び越えて梅雨になる
貰った花束春呼び戻し
辞めて行くヘルパーさんが我が為に
ブルースターの花籠造り
白き花ブルーペーパーに包まれて
花束清し梅雨忘れさせ
真夏夜にシルクロードの旅噺し
乾燥薔薇の土産を貰い
真夏日にハイビスカスや向日葵の
花束もらい花三昧に
鉢植えのハイビスカスが開花して
夕方なれば萎み始めて
枯れかけたハイビスカスが新芽出す
あの夏の人来る頃に咲け
秋空にハイビスカスがベランダで
美しく咲き思わずみとれ
向日葵の花束もらいオアシスに
試行錯誤のアレンジ楽し
雲厚くススキ代わりか月見夜に
水引草と月餅もらい
リビングに一輪挿した黄色い薔薇
気高く見える秋の夕暮
秋雨後小春日和に菊花展
大輪小菊活き活きと咲き
ボサボサの枝葉刈り込めとベンジャミン
植木気になる年齢なのか
ベンジャミン小春日和に生き生きと
青葉茂らせどこまで伸びる
ペンダントトップはどんぐり革製の
細き黒ひもこだわりセンス
リビングに水引草が活けられて
曲線描く繊細の美
シクラメンベランダからの冬の陽を
ボードの上で競い合い浴び
向日葵が好みの花と知りし友
クリスマスには黄色い花を
青い空仕事納めに葉牡丹の
籠花もらい華やかになり
水仙の香に包まれてお雑煮を
友と集うや元旦の朝
ご覧くださってありがとうございます。
● 紙谷惠子歌集(全5ページ)● はこちらからhttps://note.com/kotiku/m/m64dd26ef5b52