【伊勢物語】122 振られる業平/井手の玉水/序詞練習
1,本文と現代語訳
また、モテない業平。なんか「いつもの」感が出てきました。おかしいな、伝説のイケメンのはずが・・・。
2,コブンノセカイ ~山城の井手の玉水の世界~
「山城の井手」は歌枕です。
「玉水」の「玉」は清らかさを強調する美称です。多田一臣編『万葉語誌』(筑摩選書 2014)で少し深く突っ込みます。
単に清らかなだけではなく、霊力を帯びた水が「玉水」なんですね。「井手の玉水」にかけて約束をするということは、神霊に誓うに等しい約束だったのでしょう。
続いて「水」は川のことを言います。ただしここは一般名詞ではなく、歌枕の「井手の玉川」のことを指しています。
それぞれの詳細を片桐洋一『歌枕歌ことば辞典増補版』(笠間書院 1999年)にたずねましょう。
というわけで、井手の玉川(玉水)と言えば【清らかさ、喉を潤す、山吹、蛙】のイメージが強かったことが分かります。なかなかキャラの立っている「玉川」だったようです。
ちなみに「井手」ではない玉川に近江国の「野路の玉川」、陸前国の「野田の玉川」、摂津国の「三島の玉川」、武蔵国の「多摩川」、高野山の「高野の玉川」があるそうです(『歌枕歌ことば辞典増補版』による)。
3,序詞を用いた和歌を詠んでみよう。
和歌の修辞技法は読解の壁となります。中でも序詞は、一首の文脈を追いにくくさせるため、読解の際にはなかなか手強い相手になるのではないでしょうか。
序詞については渡部泰明氏の二つの動画を紹介しておきます。どちらも導入部分だけしか視聴できません。「その先が聞きたい!」というところで切ってくるあたりが上手なんですけど、多少は参考になるかもしれません。
ともあれ今回は、序詞のある歌を作ってみる経験をしてみましょう。とはいえ一から自分で作るのは大変です。伊勢物語の歌の序詞を利用して、別の歌にしてみます。
今段の歌はどこまでが序詞になるかについても見解が分かれているのですが、『評解』の読みに従って「むすび」までが「たのみ」を導き出す序詞と考えます。この導き出される言葉までを借り、その後を自分で考えてみましょう。
山城の井手の玉水手にむすびたのみし( )
「たのみし」に続く3字で四句とし、最後の五句を加えて一首とします。
作例
①山城の井手の玉水手にむすびたのみし人は雲居にぞ行く
「雲居」は宮中のこと。恋人が入内してしまったパターンとして詠んでみました。
②山城の井手の玉水手にむすびたのみし夢は盗まれぬるかな
『宇治拾遺物語』で吉備真備に夢を盗まれた男の立場で詠んでみました。
大勢で作ってみれば、序詞の感覚も分かってくるかもしれません。
今回は以上です。お読み下さりありがとうございました。
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