高校で読むことも多い『大鏡』の肝試し話です。
長いのであらすじだけ。
ある雨夜のこと。清涼殿の殿上の間には若い貴族たちが集っていました。そのとき奇矯な振る舞いで知られる花山院(当時は天皇)は、肝試しを思い付きます。その時プレーヤーとして選ばれたのは道隆、道兼、道長の三兄弟。肝試しのコースは、清涼殿の外にあるそれぞれに割り当てられた建物まで行って帰ってくるというものでした。
あっさりと出発する道長。ビビりながら出発する道隆と道兼。そして道隆と道兼はビビりのあまり途中で帰ってきます。笑い転げる花山院。しかし道長はなかなか帰ってきません。訝しんでいるうちにようやく帰ってきました。見ると、道長は長い時間行ってきたばかりでなく、行った証の木片まで持ち帰ってきたのでした。
以上、カリスマ道長をヨイショするようなお話です。そしてこの話の中で道隆(中関白殿)が行きかかって何物かの気配を感じたのが「宴の松原」でした。この「宴の松原」はどうやら有名な心霊(恐怖)スポットであったらしく、ここを舞台とした怪談が『今昔物語集』巻第二十七於内裏松原鬼成人形喰女語第八に載ります。
こちらは『日本三代実録』に原話があります。つまり正式の歴史書に掲載された猟奇的事件が説話化したものです。
宴の松原、事故物件。
そういう話を背負ったからこそ、道隆(中関白)は宴の松原に何らかの気配を感じたのでしょう。そしてきっと平安の読者たちは、その恐怖にある程度共感できていたのだと思います。
平安内裏はなかなかホラーな世界です。