『グリザイア:ファントムトリガーTHE STAGE』を観てきた話 #グリザイアPT_舞台
2024年5月2日~6日、劇団飛行船さんプロデュースによる舞台『グリザイア:ファントムトリガーTHE STAGE』が上野の飛行船シアターにて上演されました。
FrontWingさんの人気シリーズであるグリザイアシリーズのひとつ『グリザイア:ファントムトリガー』を舞台化した、いわゆる2.5次元舞台作品ってヤツです。
公演は終了してしまったものの、千秋楽のマチネとソワレのアーカイヴがミクチャさんにて5月31日まで配信中とのこと。観逃した方は、是非、観てみてください。
FrontWingさんといえば、僕が某社を辞め、フリーのシナリオライターになって初めてご一緒させていただいたメーカさんだ、ということは言うまでもないでしょう。
FrontWingさんの処女作『カナリア~この想いを歌に乗せて~』をDreamCastに移植する際、シナリオ監修と追加ヒロイン用の新シナリオを担当させていただいたのです(懐かしい)。
『カナリア』自体はバンド少年たちの恋物語ですが、シナリオを担当させてもらった新ヒロイン星野麻衣(CVはデビューしたばかりの頃の斎藤千和さん)は演劇部に所属する演劇少女。
シナリオ案として最初にいただいたのは、演劇部の麻衣が軽音部のローディ的なことをさせられて……的なプロット案でしたが、僕が個人的に劇団の制作などをやっていたこともあって、彼女の演劇部設定を活かし、軽音部から演劇部寄りの物語にシフトさせてもらったのを記憶しております。
そんな演劇少女の物語を書いてから23年、ついにFrontWingさんの作品が初舞台化されたわけです。
しかも、舞台D.C.IIIを製作してくれた劇団飛行船さんの手によって。
これは観ないわけにはいかない、というわけで千秋楽の5月6日マチネの回を、飛行船シアターにて観させていただきました。
あ、よくよく考えてみたら僕、2002年3月にザムザ阿佐ヶ谷さんで開催した声優WAVEのイベントで上演した『カナリア』の朗読劇(星野麻衣が中学時代の友達と久々に会う、という会話劇。出演は斎藤千和さん、水野愛日さん、釘宮理恵さん、那須めぐみさん)の脚本を書いてました。なので、正確には初の舞台化……ではないかもしれませんが、あくまであれはイベント用のミニ朗読劇なので、ストレートプレイとしては初ですね。
縁あるFrontWingさんのコンテンツをお世話になった劇団飛行船さんが舞台化する、ということで「こりゃ見ないわけにはいかないぞ!」と思ってはいたのですが、当初は大千秋楽の回の配信チケットを購入し、仕事場で鑑賞する予定でした。
そしたら古巣の劇団Sky Theater PROECTの主宰である劇作家の四方田直樹くんから連絡があり、『グリザイア:ファントムトリガーTHE STAGE』の脚本を書かれた入江おろぱ先生が「観に来ませんか?」と言ってくれているとのこと。
GW最終日、ということで家族の許可は必要でしたが、寛大な心で許しを得て、約一年ぶりに上野の飛行船シアターの観客席に舞い降りることができたというわけです。
ありがとう四方田くん、ありがとうございます入江先生、ありがとう家族のみんな!
というわけで、『グリザイア:ファントムトリガーTHE STAGE』鑑賞、堪能させていただきました。
昨今、ゲームや漫画、アニメなど様々なコンテンツが舞台化され演劇界における2.5次元界隈のウエイトが上がってきている現状ですが、まだまだ女性ファン向けの作品が多い印象。そういう意味では「美少女ゲーム」(ここでは美少女ゲームの定義はあえてボカします)の舞台化は、これからのフロンティアだと思うんですよね。そんなわけで、ダ・カーポやグリザイアに続いて、様々な優良作品を舞台化して欲しいって思ってしまうわけなのですが、今回思ったのは、一口に2.5次元舞台といっても、かなり振り幅が大きいということ。
劇団飛行船さんが、持ち小屋である飛行船シアターにて、美少女ゲーム原作の舞台を上演した、という要素が同じ舞台D.C.IIIとファントムトリガーTHE STAGEですが、本当に原作に対するアプローチが真逆だったな、と感じたわけです。
そもそも魔法や不思議のあるダ・カーポと、そういったものが存在しないグリザイアとでは原作の持つ雰囲気そのものが逆かも知れませんが、それはそれとして、同じ美少女ゲームというものを板の上に具現化する過程……というか選択がまったく対照的だったのが面白かった、ということです。
そういう意味では舞台D.C.III(君と旅する時の魔法/ミライへの伝言)を観に来てくれた人にこそ、『グリザイア:ファントムトリガーTHE STAGE』を観て欲しい。そして、舞台化というものの多様性を感じて欲しいと思いました。
……で、だ。
何をもって僕が「真逆」だと感じたのか。
その辺りを少々、語ろうと思います。
■脚本家の起用法
普通、舞台化の際は舞台専門の脚本家が脚本を書きますよね。今作でも、多くの舞台脚本を手掛ける入江おろぱ氏が板の上に『ファントムトリガー』の世界を構築しておりました(僕自身はグリザイアにそこまで詳しくないのですが、ファンやメーカの方々の反応を見るに、再現度はかなり高かったようです)。
そういう意味では原作ゲームのシナリオライタを起用した舞台D.C.IIIの方が特殊です。たまたま僕が90年代から舞台に携わっていたことということがメーカさんに知られていたので、お声がかかったのではないかと思います。
原作と書き手が違う場合、脚本の方向性はいかに原作の空気を再現するか、というベクトルになります(藤崎ワールドをいかに再現するか、というのとはまた異なるとは思いますが)。
一方、原作者が脚本を書く場合、本人であるが故に再現も何もないので、いかに舞台という環境に合わせて原作を壊すか(あるいは拡張するか)、というベクトルになります。
結局、目指すべき到達点は同じなのかもしれませんが、この「そもそものベクトルの違い」は大きいと思います。
原作者と脚本家の関係、漫画のドラマ化をめぐるひとつの事件の影響で散々議論されていることだとは思いますが、この辺はもうすぐ始まるであろうアニメ版【推しの子】第二期「2.5次元舞台編」の展開も興味深いので、参考にしてみると面白いかも知れません。
■エピソードの位置付け
『ファントムトリガーTHE STAGE』は原作の間に挿話される外伝エピソードです。公式アナウンスによれば「Vol.2」と「Vol.3」の間の話、ということになっているようです。
一方、舞台D.C.IIIはゲーム本編を舞台用に再構築した物語です。もちろん、単なるダイジェストにならないようアレンジを加えてオリジナルエピソード化しています(D.C.IIIの特殊な設定を利用して、一見パラレルに見せつつ挿話できる外伝エピソードとして機能するようにもしてあります)が。
この辺りに関しては、当noteでも「映画版と劇場版の違い」みたいなテーマで論じた内容であります(※便宜上、コミックなどを映画化した際、原作のストーリィを語りなおしたものを「映画版」、原作の劇場用外伝エピソードを描いたものを「劇場版」と仮に呼び、そのアプローチの違いを区別してみたのです)。
劇場版では原作エピソードの間の話を描くことになるので、自由なエピソードにできる反面、レギュラーキャラクタの成長を描くことは制限されます(その辺りはむしろゲストキャラクタたちが背負うことになります)。
一方、映画版的な内容は基本的に本筋準拠になりますので、あまり多彩なゲストキャラを登場させることはできなくなってしまいます。
■主人公と主演
美少女ゲームと呼ばれるプレイ形態のゲームには「主人公」と呼ばれる存在がいます。実際、物語の上では視点でありいわゆる「主人公」そのものです。通常のコミックやアニメの舞台かであれば主人公=主演で構わないでしょう。
しかし、美少女ゲームに於ける主軸の存在はメインヒロインです。主人公とは狂言回しでしかなく、メインヒロイン役の演者さんこそが主演であり座長であるべきです。
では、「主人公」はどうすべきか。舞台D.C.IIIでは「主人公」は舞台上には登場せず影ナレで進行しました。主人公役を立てつつも観客席にいる皆さんこそが「主人公」である、という見立てです。
一方、ファントムトリガーTHE STAGEではあくまで主人公も登場人物の一人として扱われました。
その場合、ヒロインたちを食わないよう、要所要所で活躍する、という今回のようなカタチが理想かも知れません。
■髪色
美少女ゲームに限らないのですが、日本のコンテンツではキャラクタの特色を示す記号のひとつに「髪の毛の色」というものがあります。実際に金髪などのキャラクタ以外は(作中世界では実際に黒髪設定なのかも知れないが)カラフルな髪の毛の色で画面を彩る。視認性、という意味でも重要な文化です。
舞台D.C.IIIでは、あえてリアルな指向を示すため地毛を活かしつつ「キャラの髪色」を「差し色」で示すという方針が取られました。
ファントムトリガーTHE STAGEでは、キャラクタの髪色を示すウィッグがそのまま使われていました。皆さんのビジュアルあってのことかも知れませんが、浮いて見えるようなこともなく、皆さんお似合いでした。
もし仮に舞台D.C.IIIがカラーウィッグを選択していたらどうなっていただろう? などと想像したりもしましたね。
■キャスティングの方向性
舞台D.C.IIIはやはり、新田恵海さんと佐々木未来さんのお二人がいたからこそ、立ち上がった企画なのだと思います。舞台経験のなかった藤邑鈴香さんもその持ち前のチャレンジ精神でオファを受けてくださいましたが、基本的にゲームやアニメでキャラを演じる声優さん、というのは舞台に向いている人ばかりとは限りません。というか、そもそも「大柄な方でも小さい少女を演じることができる」「お年を召した方でも少年を演じられる」というのが声優業の強みです。演者がキャラの背格好を考慮しなくて済むからこそ、声優なのです。
そういう意味では舞台やライヴなどステージ上で活躍する機会の多かった新田さんや佐々木さんがメインを務めるD.C.IIIは元々、舞台化向きだったのかも知れませんね。
一方、ファントムトリガーTHE STAGEは原作の声優が舞台に立つわけではありません。最初から舞台化ありきのキャスティングでない限り、2.5次元舞台ではそちらの形式の方がおそらく主流でしょう。
メインのヒロインたちを、虹のコンキスタドール、でんぱ組.inc、ミームトーキョーといったアイドルグループに所属する方々が演じておりました(あと僕の観た回はSKE48の方が日替わりゲストで出演しておりました)。
アイドルという存在にビジュアル以外の演技力やアクションを求めないのは昔の話。今の群雄割拠な戦国時代には、動けて唄えて踊れるマルチタスクな娘たちが切磋琢磨しているのでしょう。
考えてみたら舞台D.C.IIIでもサラ役の髙橋麻里さんは元Dorothy Little Happy、葵役の石丸千賀さんは元SUPER☆GiRLSのアイドルでした。
アイドルという分野は本当に勉強不足で申し訳ないのですが、皆さん、本当に多才ですよね。
■ライヴ
『君と旅する時の魔法』の好評を受けて新作舞台を企画するとなった際に興業側から提案されたのがライヴでした。本編をコンパクトにまとめて、終演後ライヴパートを設ける。結局、演出さんや制作さんと話し合って、「前作の何が受けたか」を考慮し、やはり「圧倒的な脚本の物量で世界観を構築するのが舞台D.C.IIIだろう」という結論になったので見送られました(ただ、皆さんライヴは観たいだろう、ということで逆にこちらから「国語・数学・立夏…恋愛!!」のシーンを提案させていただいたわけですが)。
ファントムトリガーTHE STAGEには終演後にライヴパートがありました。そのことは開演前に入江先生から聞いていたので驚きはしませんでしたが、余韻もなくナレーションが入ってライヴが始まってしまうので「そういうものなんだな」と納得させるのに少々時間がかかりましたが。
ただ、始まってしまえばライヴはライヴ。しかも、舞台本番の稽古に加えて、ライヴの歌唱練習や振り入れ、フォーメーションなどの稽古が加わるわけですから、演者さんの苦労も相当なものだっただろうと想像できます。
カナリアの頃から楽曲も美少女ゲームの重要なファクタのひとつ。観客席には作品ファン、演者ファン、舞台ファンなど様々な方々がいたと思いますが、皆さん、満足していたんじゃないかと思います。キンブレなどは持ってなかったので振れませんでしたがw
……以上かな? まだあるかも知れませんが、この辺りで切り上げることにします(また何か思い出したら加筆している可能性はありますがw)。
純粋な『グリザイア:ファントムトリガーTHE STAGE』の感想になっていないのかも知れないですが、悉く「舞台D.C.IIIで選択しなかったもの」を「選択している舞台」だったので、劇団飛行船さんの、2.5次元舞台というものの、舞台というエンターテインメントの奥深さ、選択肢の振り幅、というものを再認識することができました。
終演後、劇団飛行船の方やFrontWingの山川社長、脚本の入江おろぱ氏などとお話させていただき(本作でアンダーを務めていた清水優莉さんにもご挨拶することができました。一瞬でしたがw)、劇場から上野駅までの間も、何故か山川社長とSky Theaterの四方田くんという珍しい組み合わせの三人で語りながら帰る、という面白い状況に内心驚いていました。どちらも20年来の付き合いではありますが、それぞれゲーム(仕事)と舞台(プライベート)という別々のカテゴリにいる人間だったので「ゲームと舞台の融合」という「2.5次元」を生で感じることができました。
ちなみに入江おろぱ氏と四方田直樹くんは、「3CREATORS+5ACTORS」というプロジェクトを立ち上げ、9月に公演を予定しているそうです。
現在、出演者を募集しているとのことですので、ご興味のある方は応募してみてください。
ちょっと話が逸れましたね。
ともあれ、そんなわけで「舞台D.C.IIIを観てくれた方にこそファントムトリガーTHE STAGE」を観ていただきたいと思ったのは、この対比を感じて欲しいからなのです。
演劇や音楽などのライヴエンターテインメントはコロナ禍で大きな打撃を受けました。規制が緩和された現在も、(別に感染症が消えて無くなったわけではないというのもありますが)まだまだ集客面では回復したとは言えない状況です。
加えて急激な円安による物価高、年々上がる国民負担率など、皆さんの娯楽にかけられる予算が厳しくなっていく中、その限られたパイを奪い合うように、エンタメ業界がしのぎを削り合っているこの状況。ゲームと舞台すら、パイを食い合う間柄になってしまっていますが、やはり楽しいもの、素晴らしい娯楽を提供したい、という皆さんの本気はどこも変わらないのだと思います。
閉塞する業界の雰囲気を打破する、みたいな大層なお題目を掲げる必要はないとは思いますが、2.5次元的な舞台化は、「美少女ゲーム」の楽しさを拡張するひとつのツールだと、今回、改めて感じました(僕もやれるものなら、またやりたい!w)。
中には「舞台化なんて誰得だよ」と思われる方もいるかも知れませんが、好きなコンテンツを長生きさせるためのひとつの手段として納得していただけると幸いです。というか観たことのない人は一度観てみてください。
残念ながら舞台グリザイアPTの公演は終わってしまいましたが、31日までアーカイヴの配信を行ってるそうなので、美少女ゲームの可能性にベットしてくれるという方は是非是非、ミクチャさんでご覧になってみてください。
屹度、楽しいと思いますよ。
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