妻を騙してたらふく食べる
msdは激怒した。
必ずかの邪智暴虐の妻を言い負かさなければならぬ。
msdには政治がわからぬ。
msdは田舎で育った会社員である。
稲を植え、米を食べて暮らしてきた。
食事に対しては、人一倍に敏感であった。
・・・
妻と結婚してから順調に育ったお腹。
「醜いものが嫌い」という、結婚当初に聞かされたカミソリのような言葉を思い出し、痩せようと努力する日々。
しかし、食べたい。特に米が食べたい。
「米を食べるために生きている」と豪語してきた僕にとって、米が無い生活は考えられない。
もともと僕は一人暮らしの時でも米は三合炊いていた。
一部冷凍に回すこともあったが、大体一人で食べきっていたものだ。
カレーを食べる時も、「カレーは白米を美味しく食べるおかず」と言うくらい、僕にとって白米は食事のメインである。
そんな僕に妻は言う。
「お米は一合ね」と。
夕食がカレーの時でさえ、妻は「お米は一合で良いね」と聞いてきた。
良いわけ無いだろ。
お米一合って炊いたら約340gなんですって。
ココ壱のカレー、普通が300gだぞ。
なんで340gを二人で分け合わんといかんのじゃ。
珍しく必死にプレゼンする僕を見て、カレーのときは1.5合ということで決着がついた。
しかしその一方で、通常時は一合という暗黙のルールが課せられるようになった。
・・・
一合を素直に分けていては食べたりない。
やろうと思えば、自分が食事を用意するときはこっそり1.5合炊いて食べてしまうということもできるが、基本的に妻の帰りを待つので中々難しい。
一人分の食事を用意する時に一人でたくさん食べるという手もあるが、
妻に内緒で悪さをするのも自分のプライドが許さない。
僕は常に”合法的にたらふく食べる方法”を考えた。
(そもそもたらふく食べるのに合法も違法もないはずだが)
そんなある日、参列した結婚式の引き出物にあったカタログギフトを見ながら欲しい物を見ていると、ある物が目に入った。
夫婦茶碗である。
妻に「僕たちもそろそろいい大人だ。ちゃんとした茶碗でご飯を食べようじゃないか」と提案する。
「ちゃんとした茶碗って何?」と早速つまずく妻を無視して、僕は萩焼の夫婦茶碗のページを見せた。
「ほら、萩焼は見た目も質感も軽やかで、これからの季節にはぴったりじゃないか。大人だな、これが大人の嗜みってやつだな」
と言い聞かせる。
「だったら私は万古焼の方が良いな」と話す妻。
確かに万古焼もカタログの別ページにはあった。
しかし「いや、萩焼だね。萩焼以外考えられないよ」と折れない僕。
「そんなに言うならじゃあそれで良いよ。」と妻。
気が変わらないうちにサクサク注文の手続きを進める。
勝った・・・!
カタログギフトの中で、最も男女の大きさに差があった萩焼を手に入れたぞ・・・!
これまで使用してきた茶碗では、どうしても一人0.5合だった晩御飯が、合法的に0.7合ほど食べられるようになった。
届いた茶碗を見てほくそ笑む。
嬉しそうにご飯を盛り、嬉しそうにご飯を食べる僕を、妻は動物園の動物を見るように見ていた。
もしかしたら妻は全てわかっていたのかもしれない。
妻を騙していたのか、それとも・・・?
msdは、ひどく赤面した。
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