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父ちゃん37日目~笑う門には福来る~

神社で見かけた「笑い神事」のポスターに心を惹かれた心太朗。仕事を辞めた今、自由な時間を楽しむ彼は、お祭り好きの妻・澄麗と産まれたばかりの息子・健一を連れて参加することに。笑い声が響く神事を家族で体験し、心太朗は家族と笑う喜びを改めて実感する。

**父ちゃん37日目(12月23日)**

前日のお宮参りで、神社の掲示板にふと目を留めた心太朗。その目に飛び込んできたのは「笑い神事」と書かれたポスター。
「笑いによって一年の災いを祓い、福を招く」らしい。なにそれ、笑えば福が来るとか、と心の中で軽くツッコむ心太朗だったが、なぜかそのポスターにじっと見入ってしまった。

「ここに住んで10年近くになるけど、こんなお祭りがあるなんて知ってはいたけど、行ったことなんてなかったな」
そう思い返すと、いつも仕事で行けなかったことを思い出す。まあ、そもそもあんまり興味もなかったけどな、と心太朗は肩をすくめた。

だが今の彼は違う。「仕事してない人」の肩書きを持つ身である。そう、堂々と平日に昼寝もできる自由人だ(まあ堂々と言うには、少し稼ぎが欲しいが)。
お祭りなんて苦手だったけれど、お祭り大好き妻・澄麗と結婚してからはずいぶん慣れた。というか、澄麗が「お祭り行こう!」と目を輝かせるたびに、逆らう元気が出なかっただけなのだが。

それに、産まれたばかりの健一をいろんなところに連れて行ってあげたい、という気持ちも湧いてきていた。今しかない時期だしな、と考える自分に、「お、父親っぽいじゃん」と少しだけ照れる心太朗。

家に帰ると、案の定、澄麗が「あのポスター見たでしょ?行きたい!」と目を輝かせて言った。ここで「いや、俺、笑い神事とか恥ずかしいし」とでも言えば、家の平和は一瞬で瓦解する。よって、心太朗は平和のためにこう返事したのだった。
「…行こうか。」

当日は夕方4時ごろ、澄麗と健一を連れて神社へ向かった。人がたくさん集まっている。インフルエンザも流行っているので、人混みから少し離れた場所で待機。健一を抱きながら、心太朗は遠くから祭りを眺めた。

メインイベントが始まる。境内の階段にはずらりと巫女が並び、鈴を鳴らしながら妙にリズミカルな動きを見せる。その真ん中では神主が踊る――いや、これ踊りか?――なにやら奇妙な動きを繰り広げている。
和太鼓がドンドコ鳴り響き、軽快な音楽も流れ始めた。ライトアップされた境内は妙に神秘的で、心太朗の中の「ツッコミ魂」が静かに火を灯す。

「なんかシュールだな…」と思っている間に、司会者が音頭をとり、集まった人々が一斉に笑い出した。

「ワッハッハッハー!ワッハッハッハー!」
神社中に響き渡る大笑い。これには心太朗も思わず釣られ笑い。澄麗も楽しそうに笑っている。健一はというと…泣くでも笑うでもなく、キョロキョロと目を泳がせている。
「この状況を説明できる言葉をまだ覚えていないだけだよな、きっと」と、健一を見つめながらもまた笑う心太朗。

こうして5分間の大笑いの後、神事は終了した。人混みを避けるために早めに神社を後にする一家。

帰り道、坂道を3人で降りながら心太朗は思った。昨日のお宮参りに続き、今日もなんだか運気が上がった気がする。そして何より、家族で笑う時間がこれほど心を軽くするものだとは思わなかった。

「これから3人で、もっとたくさん笑おうな」
そんな父親らしいセリフを心の中で呟きつつ、心太朗はひっそりと願うのだった。

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